ディスクユニオンでなんとなく気になってDVDを購入し、その時には全然知らない作品だったのにその後チラチラと隠れた名作として名前を目にする事になった作品。
昔色んな映画関連の本を読み漁ってた頃には目にもしなかった。
そのオチの部分を含めて要約してしまうと本当になんて事ないお話になってしまうのだけど、最後の10分でこれまでを完全に覆してしまう展開に驚いた。
そこに至るまでの物語は、娘を失ってから精神のバランスを崩した奥さんの不安定さを延々と見せられるだけなような、冷静に考えると面白くも何ともないモノなのにもかかわらず、その映像美によって積み重ねられる不気味さに覆われていて目が離せない。
お話ではなく映像で物語を紡いでいる。
舞台は風光明媚なヴェニス。
本来なら運河を行き交うボートや入り組んだ路地など、たっぷりと街の様子を観光気分で楽しめそうな場所。しかし本作では空は終始曇っているし路地は暗いし、運河は主人公達を外に出さない水堀の様だ。
そしてそこに現れる人々は、どこか素っ気ない司祭、初対面でいきなりあなた方の間に赤いカッパ着た女の子がいるわよと告げてくる老姉妹(の妹の方)、何かを隠してるかの様な警察、何言ってるかわからない(ただ単にイタリア語話してるだけなんだけど)現地の人々など、不安を掻き立てる要素がいっぱい。
そこに加えてヴェニスの街で、最近連続殺人事件が起きている。
娘を亡くしてから不安定になった奥さん(ジュリー・クリスティが可愛い)は、むしろ老姉妹に娘を見られてから信じられないほど明るくなった。きっと新婚の頃から夫婦の営みにおいて、妻があんなに積極的なことはなかったのではないだろうか?
老姉妹に傾倒していく妻を夫は案ずるが、老姉妹が予言するのはむしろその夫の危機。
教会での作業中に転落しそうになるなど事実危ない場面もあるのだが、やはり全体的にはそんな不気味な婆さんの言う事信じられるかよ、という感じがする。途中で挟まれる、老姉妹が大きな声で笑ってる場面とか、無闇に不気味だし。
挙句に一旦イギリスに帰ったはずの妻が喪服姿で老姉妹とボートに乗ってたりするのだから、夫の心配はより強まる。
ところが。
学者であり理路整然とした人の様に見えるけども、1番最初を振り返ってみると、写真から滲んだ赤色だけで娘の危機を感じ取って庭に走り出すなんていう、まさかの第6感を最初から炸裂させている人がだった。初めての土地で道に迷った時にも、ここは知ってる場所だな、とか言ってたし。それゆえか、赤い影にずっと囚われていたのもやっぱり彼の方だったのだ。
不気味ながらも美しい映像美は今見ても素晴らしいもので、映像ありきで進む物語は魅力的だった。もっと有名でも良さそうだけど、あまりに静かだからかな?
隠れた名作を堪能させてもらった