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4ヶ月、3週と2日のHKのレビュー・感想・評価

4ヶ月、3週と2日(2007年製作の映画)
4.0
「汚れなき祈り」「エリザのために」のクリスティアン・ムンジウ監督によるチャウシェスク政権下の時代を描いたルーマニア映画。キャストはアナマリア・マリンカ、ローラ・ヴァシリウ、ヴラド・イヴァノフなどなど

1987年のルーマニア、大学の女子学生寮のルームメイトである二人のうち、片方が望まぬ妊娠をしてしまったために中絶をすることに。しかし、当時の政権下では人工中絶は違法であった。そのために闇医者に頼んでやるしかなかったのだが…

映画の舞台はチャウシェスク政権下ではあるが、チャウシェスクという言葉はこの映画では一度も聞こえない。映画の舞台である時代背景などを含めて台詞で説明する箇所をほとんど省いて演出してる。

そのために観客は彼女らの行動一つ一つを覗き見ているような感覚に陥る。このようなタイプの映画は大体ミヒャエル・ハネケさんあたりが撮ってそうだ。他にも最近だと「父の秘密」などを撮っているメキシコのミシェル・フランコさんとかもこういう撮り方に近いのかな。

移動ショットなどもしっかりと入るが、劇中の食事シーンや闇医者が施術するシークエンスを含め、どちらかというとフィックスで撮っているようなシーンが顕著である。そのため映画全体からはパルムドールが好きそうな静謐な雰囲気が漂う。

あくまでチャウシェスク政権の不条理などを伝えるために政治的意図や社会問題提起のテーマ性などはあまりなく、あくまで当時の舞台背景としての装置としてしか利用せず、物語内で語られるのは若さゆえの過ち。そしてそれをかばってしまう人間というものの罪悪感というものを冷徹に醸し出す構造となっている。

登場人物はなぜかルームメイトの堕胎を強力している主人公のオフィリアが闇医者との施術の約束を果たすために本人の代わりに奔走する一日をメインとしている。

あくまで驚いたのが、ガビツィアの要領の悪さといい加減さだ。ほとんどのことを全てオティリアに一任してしまうし、その結果彼女はそのとっばちりを一人で背負うために。揚げ句の果てにオティリアは…、

劇中ホテル内での闇医者との会話ではほぼ全ての返事が曖昧で、揚げ句の果てには嘘までついてしまっている。上述した悲劇も含めて私があの現場にいたら絶対にあの黒髪女ぶん殴ってますね。

この独特の女性ゆえの優柔不断さと曖昧さによって観ている観客が焦燥感に駆られること自体が、この映画の一番の見所であろう。パルムドールを取る作品というのはハネケさん含めて、人間の本質的な負の感情を滲みだすような作品がとても多いからだ。

この作品もそのような表現を見事に駆使して映像化している。上記したホテルでの場面意外にも、オティリアが恋人の自宅でのホームパーティーに参加している際のあの居心地の悪さとかもねえ。他の人たちが気軽にあまりゲストに対する配慮のない会話をしている中、真顔で佇む彼女から滲み出る場違い感やら不快感がこちらにまでひしひしと伝わってくる。

終盤の一番の見どころである堕胎した胎児の遺体を捨てに行くシークエンスは思いっきりフォローショットを利用したサスペンス映画的な独特の緊迫感に溢れた撮り方になっている。

それこそ覗き見てしまっている感覚、そして観客は彼女をストーキングしてその光景を冷ややかな目で見つめているような罪悪感に駆られてしまうのである。この罪悪感もまた、この映画内で取り扱われるだろう本質的な負の部分に該当するのであろう。

以上のように、劇的に登場人物にアクションをさせるようなありふれたドラマ体型に収まらず、その静謐なタッチでひたすらこちらにロベールブレッソン的なリアリズムを醸し出してくる演出がとても良かったと思いますよ。これぞヨーロッパ映画的な撮り方であると思いますね。

いずれにしても、見れて良かったと思います。もうちょっとこういうルーマニア映画とか色々と見てみたいですね。

最後にタイトルの意味合いは恐らく彼女の本当の正確な妊娠期間なのだろうが、劇中では「4か月」とまでしか彼女は言ってなかった。「ほぼ五か月じゃねえか馬鹿野郎!」と言ってやりたくなる。
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