えいがうるふ

4ヶ月、3週と2日のえいがうるふのレビュー・感想・評価

4ヶ月、3週と2日(2007年製作の映画)
4.1
舞台はチャウシェスク政権下の独裁国家ルーマニア。
何故バスのチケットが無い人間に当然のように自分の切符を分け与えるのか、何故たかがルームメイトの窮地に自らの身を呈してまで尽くすのか・・・人は自分が幸せでないと他人の幸せを思いやる心の余裕は持てないものだと信じてきた自分には、そもそも彼らの行動の動機が理解できず、受け入れがたい違和感を感じてしまい落ち着かなかった。

そして鑑賞後にどっと疲れ、解説の類を読む気力もなくただぼんやり考え込んで思い至ったことは・・・
もしやこの作品は、国家政策として避妊と中絶が禁止されるという異常がまかり通るほど、弱者があからさまに虐げられ抑圧されていた当時のルーマニアのような真のディストピアにおいては、人間がもともと持っている相反する性質、その最も醜く卑しい一面と最も美しく尊い一面とが、どちらも極端に表出するということを描いているのではないだろうか。

個人の失敗は基本的に全て自己責任として扱われ、人は人自分は自分、他人の幸不幸は自分の人生とは無関係と考えるのが当たり前のこの素晴らしき自由な個人主義社会で、自分はとっくに人として大切な何かを失っているのかも知れない。