スギノイチ

紅の流れ星のスギノイチのレビュー・感想・評価

紅の流れ星(1967年製作の映画)
3.5
ジャン・ギャバンの『望郷』を翻案した裕次郎主演の『赤い波止場』をさらにリメイクした作品だ。
「無国籍アクション」と「ニューアクション」の境にあるような映画で、さらにゴダールの『勝手にしやがれ』の要素もアリと、色々と意欲的に取り込みながらも独自の光を放つ傑作だ。

基本的にあまり『望郷』の面影はない。
港町(カスバ)が舞台。都会の臭いのする女に惹かれる。献身的で哀れな愛人…共通するのは大まかな設定ぐらいで、後は『勝手にしやがれ』の影響の方が強く出ている。
カスバの迷宮描写は『赤い波止場』の方が凝っていたぐらいだし、『望郷』を翻案し直すよりも、さらに一歩先へ進んだアクションに挑戦しようという舵取りが感じられる。

主人公の渡哲也は有名な殺し屋で、ターゲットの車に並走して軽~く射殺してしまうOPからしてクールだ。
飄々として饒舌でスケベで抜け目無し。後年の渡哲也にはあまり無いキャラで、ルパン三世っぽくもある。
ヒロインの浅丘ルリ子に「寝ようぜ」「抱きたいんだ」等のセクハラマシンガントークを延々と繰り出し、機嫌が良くなると荒木一郎の『いとしのマックス』を口ずさんだりする。
クラブでチンピラを一蹴した渡哲也が力の抜けたジェンガを踊り始めるシーンは何度も見たくなる。
ここで戸惑いながらも途中からノリノリで踊り出す愛人女役の松尾嘉代が可愛い。
『望郷』のジプシー女然り『赤い波止場』の中原早苗然り、メインヒロインより愛人女の方が魅力的に見えるのはこのシリーズ(?)の伝統か。

敵の殺し屋を演じるのは宍戸錠で、清順映画から出張してきたかのようにエキセントリックである。
絶叫マシーン上の渡哲也を遠方から捉えて不敵に標準を合せる1人遊びが洒落ている。
『赤い波止場』では主人公の舎弟(岡田真澄)が処刑されるシーンは敢えて間接的描写にとどめていたが、本作では海へ突き落した杉良太郎を情け無用に蜂の巣にしてしまう残酷処刑ショーが展開される。
こんなにキマってるキャラなのに、渡哲也との決着になると泥臭い殴り合いを始めてしまうのはちょっとガッカリ。もったいないぞ。

多く言われているように、確かに本作の渡哲也のキャラは『勝手にしやがれ』のジャン=ポール・ベルモンドの模倣なんだろう。
ただ、ベルモンドはあくまで大人の伊達男という感じだったが、本作はそれをそのまま模写している訳ではなく、渡哲也ならではの性格付けがなされている。
特に、いざ浅丘ルリ子とのベッドインを前して「弟分の敵討ちがあるから」とセックスを拒むシーンに集約される。
その時の爪を噛んだ仕草と、おしゃぶりをくわえた赤子の様な表情!
本質的な部分で不器用さや青年臭さを捨てきれないのが当時の渡哲也の魅力であり、この当時の舛田利雄監督はどの作品でもそれを正確に捉えて演出しているように思う。
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