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黒い罠のotomisanのレビュー・感想・評価

黒い罠(1958年製作の映画)
4.2
 宵の口の街中、爆弾を仕掛けられる二人連れにまるでつきまとわれるかのようなもう一組の二人連れ。どっちがどれほどヤバいのか?しょっぱなからタイマーが切れるまでを延々生中継でハラハラさせられるのがいいところ。いやいやご愁傷様。
 この数分の間に墨米二国の国境が挟まっている。これがあとあと犯人追及のややこしさ右往左往へとものをいう。
 国境と油田、金も物も暴力も集まりそうな土地の勢力均衡を壊す事態の応酬に、巻き添えなのか狙われたのか?生き延びた方の二人連れ、メキシコ麻薬捜査官夫妻は捜査と裁判の束の間での新婚旅行がたちまち捜査協力に逆戻り。しかし、闘う相手は爆破犯なのか、米国側、捜査権者らの強硬で心証先行の捜査なのか知れなくなる。そして次第に、捜査主任、グロテスクなオーソン刑事の闇に目が奪われるようになる。
 検挙率こそ華々しいが違法捜査も死人に口なしもお手のもの、警察にも司法にも好都合なオーソン。外面の怪物性の根っこが、紫煙の似合うマレーネD.やら追及者の隠したマイク越しの言葉の応酬から微かに浮き彫りになる。
 夜の油井の森に立ち込めている苛立たしい揮発成分の臭いに息詰まるような追及がオーソンたちの外見以上にグロテスクそうな絡み合いを想像させる。
 ペスト除けの名残り、マレーネD.の煙草が、金にはなるが暮らすには最低な油田地帯の場末の碌でも無さへの祓いのようだ。怪物の容貌に見紛う程いつから合わなくなったのか、どうしてここで粘るのか、なぜオーソンの後を尋ねて来たのか、録音が明かす闇の一端を死んだ二人の刑事は...と接ぎ穂のように語る言葉の少なさに、耳に障るとも唇の穢れとも付くような突き放しを覚え、それじゃと向けた背中が油井の森に入っていくなり闇に消える。刑事二人が死んで、口を噤んで掻き消えた闇に国境の町の覇権争いもメキシコ麻薬捜査官の挽回も塗りつぶされて心に油がギト付くような燻りが残るのだった。
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