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ヒミズのtontonのレビュー・感想・評価

ヒミズ(2011年製作の映画)
3.5
原作物という事でどこか突き抜ける感じが今までの作品に比べ薄かったり、少しだが(少しでも、そうであってはならないのかもしれないが)東日本大震災を絶望を描くことの時間短縮として使っている様に見えた。(ただ原発や放射能という問題の使い方は一貫して「目にはみえないが全体的につきまとう、これからの日本への不安感」というメタファーとして使っていたため気にならなかった)。
それと勝手に予告編から、今までの作品の中でセリフ回しなどでみられた異常なまでのポエテッィクな表現を、映像表現として昇華させてくれると思っていた。
それは、新しいカタチの園監督作品を見れると思っていたからで、この「ヒミズ」という作品はその逆。今までの園作品の延長線上であり集大成的な映画だった。
「あらっ?「野球狂の詩」の岩田鉄五郎のノホホンボールを「ドカベン」の殿馬が打って勝ったと思ったら、次の試合は「男どあほう甲子園」の藤村甲子園が出てきちゃうの!?」
っていう水島シンジでいうと「大甲子園」のような。
だからといって、つまらない訳ではない。期待値が高すぎただけで、むしろ面白い。
これが初めてみる園子温作品であったなら、大絶賛していた気がする。

ちなみに「ヒミズ」のストーリーはこんなん。
ごく普通に生きることを願っていた住田と、愛する人と守り守られ生きていくことを夢見る景子。ともに15歳の2人の日常が、父親の借金・母親の家出・父親殺しなどをきっかけに絶望と狂気に満ちたものへと変わっていくってな感じ。

集大成的なと書いたが、このストーリーの中に今までの園作品で描かれていた物も多く、今までの園作品の翻訳本という印象がある。
例えば
主人公住田が経営する貸しボート屋の池の水の中で暴れたあと、狂気的な道徳主義者になるシーン。このシーンはキリスト教における洗礼にみえた、それは「愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」の中でも同じように描かれたキリスト教的な道徳を一例にだし、その道徳の無意味さや疑い・野蛮性を表現したものであったり。

他にもその狂気的な道徳主義が走り、無差別殺人を実行しようとするのだが、たまたま他の無差別殺人の現場に出会い、その殺人を止めたりもしてしまう時住田が矛盾を感じるシーンは、「愛のむきだし」でのカルト宗教にハマった女が叫ぶ言葉が余りにも美しかったり、その女に惚れる男が叫ぶ「キリストでムハンマドでもかまわない!この宗教にだけは入ってほしくないんだ!」という言葉に似た、信じるという行為や、信じているモノの不確かさを感じる事だったり
と、それ以外にも色々「力」や「母性と父性」についてなど他作品との共通性が見られ、それらが翻訳本と言った様な分かりやすさがあるのは、多くの園作品に共通した「家族とはただ役割を演じるだけで、ホントは崩壊しているのではないか」という表現が、他の作品と違い、物語がもう既に家族が崩壊しているところから始まる点じゃないかな。
東日本大震災を映画の中に取り入れたのも、これと同じ様な理由も少しあったような気がするし。
勿論この出来事前と後では伝えたい事も変わるのは分かるし、この出来事後の青春映画としてエポック的な作品に「ヒミズ」はなっていた。
ただ少なからず絶望と言うものを表現するときの時間短縮に感じてしまった。
・・・が、そこらへんを描かない、絶望から始まる分、その後の事が伝わりやすく、2時間10分という園作品にしては比較的短いところなど、園子温に触れてない人には入門編的な、「ヒミズ」以前の作品を見ているものにとってはそれらの翻訳本になる、そんな作品になっている気がした。

それと勿論、集大成的な要素だけではない、この作品独特のモノも色々ある。
それは何よりラストシーン。
そして原作となにより違うのもラストシーン。
このラストシーンの光景は今までの園監督作品では異例かもしれない。
そのラストシーンは、僕にとって原作よりも残酷で辛すぎるラストだった。
このラスト、永遠ある言葉が連呼される。
その言葉の残酷な事といったら。
でも、きっとその言葉を僕らは言い続ける、その言葉を言われないように、その言葉を言われる恐怖を背負いながら、永遠に、永遠と。
今までの園作品のラストの様に、拘束してまで現実を直視させようとするような感覚とは違い、突き放されるように野に放たれるように現実を直視させられる感覚。

そんな感覚を伝え、余りにも色々な要素が在りすぎてバラバラになりうる作品をまとめたのは何より主役の染谷将太と二階堂ふみ。
全体的にざらついた質感のフィルムの中、濃厚ながら驚くほど鮮やかで眩しい演技。
この二人の演技を見るだけで、入場料の元はとれます。
特に二階堂ふみは、「害虫」を映画館で観て宮崎あおいの才能に驚いた時のような、ちょっと演技の仕方も二人似ているし、そんな感じで驚きました。あんまり観た事ない分。
染谷将太はチョイチョイ映画とか出てくるしね、それでも驚くほど凄い良い演技
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