半兵衛

Tommy/トミーの半兵衛のレビュー・感想・評価

Tommy/トミー(1975年製作の映画)
4.0
the whoはそれほど詳しくないのだけれど、そんな私にも彼らのシャウトとドラマチックな歌詞をプロモーション映像とは違う映画として作り上げてしまうケン・ラッセルの手腕に感嘆する。でも歌詞以上に監督のイメージがぶっとんでいて変な世界観に仕上がっているのも事実。

トラウマを背負った青年がピーンボールとの出会いによりカリスマ性に目覚め、人々を導く存在になっていくという物語は当時流行していたヒッピーカルチャーへの監督なりの返答ともとれるしあるいはキリストの再来をなぞっているとも言える。また主人公の青年が耳が聞こえない、目が見えない、喋れないという三重苦を背負い自分の世界に閉じ籠っている姿は高度化するツールにより人との接触を避け一人で閉じ籠ろうとする現代人への揶揄とも取れ、そんな主人公が自らと向き合ううちに回復していく様は自己と向き合うことの大切さを訴えているかのよう。

前半はトラウマを抱えた青年が苛められたり苦難を受けたりするのでひたすら痛々しかったが、主人公がピーンボールにハマってからは自分の世界を見つけた人間の高揚感が伝わってきてそれを祝福するかのような曲調も相まってテンションが上がってくる。とあるトラブルにより身近な人が居なくなるなどの挫折を経験したにも関わらずあまり主人公が気にしていない不思議なラストも、自分という存在を再確認し生を享受したと考えれば辻褄があう。

個性的なミュージシャンや俳優たちのアクの強い演技も奇抜な音楽劇にぴったりで、なかでもマリリン・モンローのでかい人形の前でシャウトするエリック・クラプトン、変なファッションを見にまとい夢幻世界の住人のような雰囲気を醸すエルトン・ジョンが凄い強烈。

麻薬に溺れる様子をアイアン・メイデンの中にいる様子で表現するセンスがかっこいい。

あと青年の母親をアン=マーグレットがセクシーに演じているが、『バイ・バイ・バーディー』ではあんなに溌剌としていた彼女にこんな罪深い親の役を演じさせるのがシニカル。
半兵衛

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