映画おじいさん

狐と狸の映画おじいさんのレビュー・感想・評価

狐と狸(1959年製作の映画)
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「商売で嘘じゃない言葉は「こんにちは」と「さようなら」だけ」とうそぶく詐欺まがい行商人ポッセの物語。

貧乏百姓の出で食う為に行商人になった加東大介は、貧乏百姓からも躊躇なく金をふんだくるものの、逃亡の最中に知らぬ農家の米倉庫が火事になっているのを見つけると「オレは百姓のせがれ、これは見捨てることが出来ねえ」と我が状況を忘れ助けに行く。
このように詐欺行為同様の行商と人助けが別のモノとして一人の人物の中に両立した上で、観客にも納得がいくキャラになっていたのが素晴らしかった。

劇中に連呼される「欲の皮を張るからダマされる方も悪い」って言葉、最近言わなくなりましたね。良いか悪いかは別にして。

森繁が預かった金を半分持ってドロンして、残りの半分の金に添えてあった手紙を読むシーンには楽しい呆れ笑い。酷い仕打ちな上に女と遊ぶ金欲しさというしょうもない理由なのに、森繁に対して悪印象を持たせないのは演出の巧さか。
半分残すなんていずれにせよ返しようがないのに無駄な誠実さを見せるのも可愛い。とはいえ旧友の信頼を裏切る鬼畜行為。それでも極悪人に思えない。

欲の皮が突っ張った人間たちをありのままに受け入れることによって紡ぐ人間賛歌。ちょっとテンポがもたつくところもあったけど、こんな大らかな時代があったのかと羨ましくなる大好きな作品。