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人斬り与太 狂犬三兄弟のスギノイチのレビュー・感想・評価

人斬り与太 狂犬三兄弟(1972年製作の映画)
4.5
書籍等によっては「現代やくざシリーズ」には数えられていないことも多いが、『人斬り与太』のれっきとした姉妹編であり、過激さ、残酷さをさらにエスカレートさせた傑作だ。
またも「三兄弟」だが、本作の弟分は伊吹吾郎や渡瀬恒彦の様な正統派男前ではなく、田中邦衛と三谷昇という怪人2人であり、前作からさらに狂暴化した文太を加え、狂った三兄弟が大いに暴れまわる。
単純なバイオレンス度なら『仁義なき戦い』以上であり、特にライバルである今井健二の最期のシーンが顕著だ。
そこにあったのは、ドラマチックな仇敵との決闘ではなく、醜い「殺人」シーンだった。
また、この三兄弟はそれぞれ理由もタイミングも異なる時に散るのだが、三者三様に壮絶な死にざまを見せてくれる。特に、田中邦衛の最期は色んな意味で容赦がない。

また、深作欣二のヤクザ映画では珍しく、女性キャラクターの掘り下げがなされているのも特徴だ。
本作のヒロイン・渚まゆみは、ぼったくり売春宿に軟禁された上に文太に強姦され処女を奪われる。
さらに売春を強要されるのだが、ヤクザなんかに負けるかとエネルギッシュに反抗しまくる。歓楽街を全裸で逃げ回るシーンでは文太も形無しだ。
しかし、彼女の純朴さに心を打たれて貰い泣きしたり、自分のラーメンの叉焼を分けてあげるシーンで、本作の文太が冷血な鬼畜だけの人間でないことが判る。
まあ単なるDV男のアメムチなのだが、文太がやるとこれが魅力的になってしまうから困る。
渚まゆみは本編中一言も台詞を発さないため、その純粋な精神性も相まって徐々にイノセントな存在と化し、文太との繋がりを強めていく。
『仁義なき戦い』は実話を基にしている以上、あまりにフィクショナルな登場人物は出てこない。
それに対し、実録路線的な過激さを有しながら、こういう象徴的なヒロインを登場させる事ができるのも本作の大きなアドバンテージだ。
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