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風たちの午後のADULTVIDEOMANのレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
5.0
監督自身がチラシに書いているけれど、LGBTやストーカーという言葉のなかった時代の映画だ。セクシュアリティや、その歪んだあらわれを、的確に名指すということが確立していなかった40年前の観客と、今の僕らの間にはどんな受け取り方の差異が生まれるのだろう、ということも考えながら見たけれど、たぶんその問いの立て方はあまり適切じゃない。というのは、40年という時を隔てても、この映画に関しては、セクシュアリティにまつわる語彙がどうこうではない次元で見るものの中に同じようなものが残るにちがいなくて、要するに2019年のいま、「レズビアンのストーカーの映画だ」と登場人物の行為を名指し規定することをしたとしても、そのことは僕らに何の安心感も与えてくれないし、ジャンル映画的なわかりやすい作品理解を促してくれることもないからだ。「LGBT映画の先駆け」みたいに形容することには別段意義があるとは思えないし、じゃあこの不穏な映画言語が僕らに語りかけてくるものはいったい・・・と、言語化できない余韻、というか不安が残るばかりだ。もしかしたら映画言語のみが(セクシュアリティを規定するのではなく)愛についての説明ができるのかもしれないなどという青臭い夢想にふけるのは容易いことだけれども、それも絶対違って、ここでも愛の言語化にはたぶん失敗しているし、だからむしろ、映画言語「ですら」愛について何かを言うことがほとんどできない(「愛が動機ならやっちゃいけないことは何一つない」と言えはしても、「これこそが真の愛だ」などとは言えようはずもない)ということが、この映画が僕らを不安/不穏にさせる一因でもあるのかもしれない。そうまでモヤモヤさせてくれるというのがまあ、傑作であることの証左でもあるのだけれど。
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