みーちゃん

ザ・ブルード/怒りのメタファーのみーちゃんのレビュー・感想・評価

4.5
クローネンバーグ監督の世界を心から楽しめた。
オープニング、てっきり劇中劇の設定かと思い、尋常じゃなく緊迫した場面だなぁと見ていたら、劇中劇ではなく精神科医の公開診療だと分かり「どうりで真に迫っていると思ったら本物だったのね!」と、変な納得をしてしまった。

それくらいラグラン医師が浴びせる罵詈雑言と人格否定の言葉選び、圧のかけ方が手練れていて、こちらまでダメージを受けそうになる。ただのセリフとは到底思えず、あれを続けたら間違いなくメンタルにくると確信する。

この時の患者マイクは、映画の中で重要な存在。彼は序盤から終盤まで、忘れかけた頃にちょいちょい登場して、その度に、オープニングのメンタルと、体中の発疹が、無意識に思い出される。同じく元患者のジャン・ハートグもそう。彼はマイクよりしっかりした人物で、だからこそ身体的には発疹より重い症状を抱えている。いずれにしても彼らから感じるのは内向きのベクトル。普通はそうだと思う。

でもノーラが超えてくる。彼女はそのベクトルを体内で変換し外側に出す。で、これだけなら、もしかしたら想定内かもしれないが、外側に出したものが、個体として自分と離れた場所で行動するなんて発想が凄すぎる。しかも、あの姿形だなんて面白すぎる。

(よくぞ色違いのスキーウェアやパジャマを着せてくれたと、雪道を歩くショットに、屋根裏の大部屋暮らしに、惚れ惚れする)

鑑賞後は全てが放出され、昇華され、澱が残らない。私は心からスッキリした。日常でモヤモヤしたらこれを観ようと思う。ラストの突き放す感じも好き。

※ノーラは錯乱状態でキャンディを抹殺しようとしたのではなく、遺伝子を絶やそうとしたんじゃないかな。