だいすけ

ガス燈のだいすけのレビュー・感想・評価

ガス燈(1944年製作の映画)
3.5
全体的にゴシック色が強い。ジャンルとしてはサスペンスということになるだろうけど、ホラー調の演出が特徴。

新居に越してから怪奇現象に見舞われるポーラは、精神不安定に陥っていく。イングリッド・バーグマンの演技は目を見張るほど真に迫っている。しかし、怪奇現象が亡霊によるものなのか、彼女の妄想によるのか、はたまた別の原因によるのか、推理する余白は完全に埋められてしまっている。というのも、序盤で早くも「容疑者」が浮上するからだ。そのため、ミステリーとして楽しむことはまずできないだろう。

しかし、その点を踏まえても、結末に至るまでの過程は十分に堪能できる。次第に精神を崩壊させていくかのように見えるイングリッド・バーグマンと、彼女を精神的にじりじりと追い詰めていくシャルル・ボワイエは、クライマックスに向けて演技をエスカレートさせていく。視線を空に投げるポーラと、彼女を視線によって虐待するグレゴリー。しかし、ラストにおいては視線の主体が逆転する。ある告白をするグレゴリーは虚を見つめており、実は彼の方こそが偏執狂的な病人であることが明らかになる。

本作のゴシック的な作風を裏付ける古風な屋敷への幽閉、立ち込める霧、怪奇現象などの特徴は、ポーラの精神状態を反映していると考えられる。ラストにおいて、精神の正常を取り戻した彼女は、怪奇現象の真相を知り、物理的な幽閉からも解放され、霧はいつの間にか晴れていた。
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