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野性の少年のHKのレビュー・感想・評価

野性の少年(1969年製作の映画)
4.2
『大人は判ってくれない』『ピアニストを撃て!』などのフランソワ・トリュフォー監督によるフランス映画。イタールの『アヴェロンの野生児』の映画化キャストはジャン=ピエール・カルゴル、フランソワ・トリュフォー、ジャン・ダステなどなど

フランス中部の森林地帯で、獣の習性を持った野性の少年が捕獲された。百姓たちには虐められたがある老人に愛情ある接し方をされた。その後彼はパリの聾唖研究所に勤める医者の保護下、医者の愛情と献身的な指導を受けながら徐々に人間味を取り戻していく。

野生児を演じるジャン=ピエール・カルゴルの演技もさることながら、冷静に愛情ある指導をするトリュフォーの佇まいなども含めて、父親と子供のような関係性をこの映画から感じることができました。

トリュフォーは『アヴェロンの野生児』から感銘を受け、育てられる野生児に過去の自分を重ね合わせてこのような映画を作った模様ですね。ヌーヴェルヴァーグらしい、プライベートな人生観というものがとても反映された作品となっています。

アンドレバザンに指導されて人間味を取り戻した”今の”トリュフォーが、『大人は判ってくれない』の時のやさぐれて野生児のようであった”過去の”トリュフォーの面影を残す少年をバザンのような愛情でもって指導するというのがとても興味深かったです。

それでいて、今のヒューマン映画であったら絶対に過去回想みたいなものを加えてヒューマニズムに寄りすぎてしまうようなショットを絶対に入れてしまうのにも関わらず、今作はそのような卑怯な手段は一切使用していません。

冷静なイタール先生が、時折暴れる野生児ヴィクトールをとにかく時には優しく時には厳しく教育する様子を、何一つ装飾することなく記録映画のようにとにかく映しとる。それはまさに『大人は判ってくれない』から通ずるドキュメンタリータッチのトリュフォーの真骨頂のように感じますね。

途中庭の草原の中を全力で駆け回りながら大雨の雨粒を受けて喜ぶ野性味あふれるヴィクトールのショットがあるのですが、そこがとても美しく感じられましたね。なんか、あそこのショットは『パラサイト』でも似通ったショットを見たような気がする。

イタール先生がヴィクトールに対して教育する際に試行錯誤する様子をただ眺めるだけでもやはり面白い。どうしても上手くいかない場合はまたレベルを落としたりするなど、とにかく色々やるのが良いですね。

ただ、サルと同等な野生動物を人間の掟に無理やり適応させようとする偽善性みたいなものがどうしても出てきてしまうというのがこの映画で、その危うさも最後の最後の展開で見事に脱するというのがとても良かったかなと。

人間のマナーが彼にちゃんとしみ込んだのは分りませんが、しっかりとトリュフォーの愛情だけは彼の心に残ったかのような気がしますね。

やはり映画というのは何一つ装飾や形容をせずにただそのままの過程を見せるだけでもどれだけ見応えある作品に仕上がるのかというのがこの映画を通じて分かったのかなと思います。

いずれにしても見れて良かったと思います。もっとトリュフォーの映画を見てみたいですね。
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