じゅんふう

十三人の刺客のじゅんふうのネタバレレビュー・内容・結末

十三人の刺客(2010年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

粗製濫造イメージが強い三池崇史監督作品、9本の大ハズレを作りながらたまに1本の大ホームラン大当たり映画を作るので侮れないし嫌いになれない。この映画がまさにそう。三池監督の悪癖が顔をのぞかせてるのも関わらず、ただ単純明快に面白い!と賞賛できる最高の作品です。
三池崇史監督は、アクションが気合い入っていて凄い、残酷で凄惨な表現に妥協がない、CGが日本トップレベル、魅せ方最高、役者の配置がうまい、その上製作ペースが早いという良さをたくさん背負いながらも、話がつまらないという一点で台無しにしているところがあって、いつも歯がゆい思いをしてしまうのですが、すべての方向性がきちっと合えばはちゃめちゃに面白いんだなということがはっきりとわかりました。

元になったオリジナル映画は、知りません。そもそも時代劇あまり興味がなく…侍にもロマン感じなく、知識もないため今までもずっとよくわからないで通してきたのですが、直後に侍や時代劇の基礎知識やら教養やらを教わって、そのお陰で十二分に楽しめたと思います。

終盤50分の大迫力戦闘シーンとは知っていたが、長くも感じない。
魅せ方がうまくて13人分最期の見せ場を作りながら戦力が徐々に削がれていく様が上手くて引き込まれてしまう。確かに道中13人全員にスポットが充てられていないので印象が薄い人が半数ぐらいいるのですが、これぐらいのバランスが見やすくていい。段々と人が亡くなって幾たびに面白さが増していくのに個人個人均等に見せ場をつくりフィーチャーされるたびに死のフラグが立ってしまい「あぁ〜〜」と思ってしまう。

手練が集まる過程が面白い。これからでかい事するという時のために人が集まってく様子はわくわくするし、「これで十一名だ…!」「これで十二名だな!」と同士が増えていく流れは楽しい以外ない。人数が増え、実行日が近づくにつれ徐々にヒートアップしていく楽しさの最高潮で迎えるあの奇襲、そしてみなごろしからの戦い。素晴らしい。
侍としての矜持、人を殺めた事がなかったりあっても少なかったりする見せかけの刀を今まさに振るうタイミングだと言わんばかりに「斬って斬って斬りまくる」。侍としての魂の誇示の場でもある一世一代のあの戦い。
狭い戦場で大人数でわちゃわちゃしてるのに一人一人にスポットライトあたりつつ戦いとして手の見せ場作りつつですごくおもしろいです。

道中で仲間を増やしていく物語が大好き〜〜と確信しました。
山の者の並外れた体力ととぼけた感じのコメディさが、全体の緊張感にうまく俗っぽさを中和させていて別ベクトルの面白さを増していてすごい。
ちょっとやりすぎのキャラクター濃すぎ強すぎ感はあるのはあるけども、とても面白い。
ただ個人的に岸部一徳さんとのホモ•プレイはいらなかったかも…。これは三池崇史監督特有の悪趣味のギャグ挟みで、緊張の糸張りまくりな映画空間に不釣り合いだったかなと思ってしまう。笑ったけど。笑ってしまったので良いです。この岸部一徳との1プレイでくだらねー笑と緊張の糸が一瞬途切れた後にあの怒濤の50分なので、映画的には息継ぎみたいなもんでしょう。引き潮みたいなもんでしょう。面白いからオッケー。


山田孝之がカッコイイ。ならず者のくせ者だけど渋くて強い奴役を演じさせたら右に出るものいるか?というぐらいぴったりと当てはまるオーラ。

そしてなんと言ってもこの映画を語る上で外せないのが稲垣吾郎の存在。
稲垣吾郎自体顔が整っていながらも腹の底が見えない、高貴で近寄り難い、そのオーラ自体をあの役割に充てた事がもう、大正解で、
顔色一つ変えず子供に矢を放つ姿とか、安易に「こうすれば残虐なサイコパスっぽいでしょ」という粗悪な演じさせ方をさせなくて大好感。その上に戦が始まり人がばっさばっさ斬り殺されていくとニヤニヤしながら「面白い」と呟かせる姿は時代背景込みで人物像がしっかりしているからこその不気味さと魅力があり、軽々しい気持ちで役者を使っていないのがわかる。
稲垣吾郎が汚らしく犬食べしたり、血だらけ泥だらけになりながら苦悶の表情で「死にたくない死にたくない」と悲痛に声上げる姿を見るだけで満足、もうこの映画の面白さの90パーセントはそこに詰まっています。
稲垣吾郎さん、映画評論は好きだしキャラクターとしても好きだけど、失礼ながら偏見を持っていて、醜い死に際がこんなにも魅力的に演じられるような技量をもった人だとは思いもしなかった。稲垣吾郎にこの役を演じさせただけでも100万点、だと思います。

松方弘樹さん、無知で申し訳ないのですがマグロのイメージしかなく、他の役者陣とは100倍以上もの技術ある剣捌きと気迫に気圧され、びっくりしてしまった…。なんなんだこの力強さとしなやかさは…。他の殺陣が霞む程の本格ぶりで度肝を抜かれてしまった。勢いが凄過ぎる。

とにかく、細かく見ていけば粗を見つけてしまうんですが、この勢い、そして豪快な剣劇、大所帯の戦。熱量を保ったまま駆け抜ける50分。最高が詰まっています。特に侍の心情を読みながら見ると違った味を見出せるし、山の者の癖の強い存在も、見終わってみると程よいスパイスだったことがわかる。
役者陣の好演がとても素晴らしい、そして時代劇の面白さを教わり、興味を持つ切っ掛けになり、もっと勉強していけばもっと楽しめる箇所が増えてくると思うととてもわくわくします。
これからも三池崇史監督の当たり作品だけを見ていきたいですね。
じゅんふう

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