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カメラマンの復讐のTnTのレビュー・感想・評価

カメラマンの復讐(1912年製作の映画)
4.1
 カメラが生まれた世界でもはや安寧の地はない。例えそれは虫の不倫であっても。

 こちらの虫は、ちゃんと虫で裏側とかは気持ち悪いと思ったりしたが、意思を感じると可愛く見えるものである。元祖バグズライフだと思って見れた。ちゃんとそれぞれ虫の特性が当人の個性になってるの多様性だなぁ(虫に混じってしれっと蛙が出てきたりするのも良い、種族は関係ない!)。あとほっそい虫の手足がちゃんと器用に動く細やかさ、絵とか描いてるし。

 アーティストだろうとダンサーだろうと恋をすればただの生き物なのさというあっけらかんとした態度良すぎ。ビートルズがall you need is loveって言ったのは、愛以上に高尚なものなんて生き物にないと言うためではないか。地位も権力も、偉そうな奴らはみんな今作の虫と同等なのだよ。今作が虫を持って描かれたことはこれにて功を奏している。

 バッタくんの復讐。探偵のごとく張り込みと盗撮によって不倫の現場を彼はおさえる!映画黎明期らしい復讐だなあ。そしてあろうことかそれを劇場で当人たちを前に上映してしまう!これは普通に復讐モノ映画にありそう。というかタランティーノの「イングロリアス・バスターズ」のあるシーンを思い浮かべたりした。多かれ少なかれ映画製作者はスクリーンを復讐や見返すために使っている。スピルバーグの「E.T.」でさえ弱かった自分の子供の頃のこうでありたかった像を実現し見返すものだったという(南波克行編「スティーブン・スピルバーグ論」参照)。そしてその復讐心は今作の年代に既にあったという驚き。

 破られる絵画とスクリーンの関係。イメージという聖像の破壊。簡単に破れる両者は単なるイメージでしかない、ラストの復縁は彼らを引き裂いたイメージを凌駕し結ばれてるわけで、イメージは単なる破れやすいものでしかないという割り切りなのではないだろうか。昨今のリアリティを持つ映画たちに付与される信仰に近い感情は怖い、ただのイメージじゃんこんなの!と今作は全編に渡って言っているかのよう(だって虫が演じてるんで)。
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