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ONCE ダブリンの街角でのkoyaのレビュー・感想・評価

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)
4.0
公開時、渋谷シネ・アミューズ(赤)で観て、今回、配信で再見しました。(シネ・アミューズはもうないのですが、赤と青の照明でイーストとウェストって2つのスクリーンがありました。なつかしい)

Boy meets girl.
もう恋愛映画の基本。
しかし、この映画では、正確にはGuy meets girl.です。
映画の中で、男性には名前がなくただのGUYであり、女性は、GIRL。
名前を呼び合う・・というシーンはありません。

「大人の恋」というのはなにかと背負うものが大きすぎて、若い人たちの恋物語よりも、もっと夢物語なのが大人の恋のような気がします。

アイルランドの街角で穴のあいたギターで弾き語りをするいい年をした男。音楽が好きだけれど、実際やっていけず、父の掃除機修理屋の手伝いをしながら、時間をみつけては街に立つ。
セーターにもギターにも穴があいてるんですねぇ。
(実はお父さんがとてもいい人)

そして、Guyの前に女の人が立つ。チェコから移民してきたGirl。
街で花売りをしたり、ハウスメイドの仕事を単発でもらったり。そんな女性ですが、男の曲をいい曲、特にオリジナルがいいと思うけど・・・そんなことから話をするようになった2人。
女性は、ピアノが弾けるけれど、家になはなくて、時々楽器店のピアノを弾かせてもらっている。

掃除機が壊れたから直してほしいと犬の散歩のように青い掃除機をひっぱってまた現れる女性。

なんとなく、いい出会い?な感じもしますが、現実は厳しい。
好きだから、つきあいましょう、結婚しましょう!とはならない、友情とも愛情ともつかない、でもお互い相手のことが気になって、でも、なかなか気持は伝えられない。
ただ、2人の間には音楽がある、というわけで、男性は、キーボードに女性を加え、バンドを作りデモ・テープを作ろうとします。

 恋愛関係にはならないけれど、音楽関係の絆は深まっていく2人。
言葉すくなで、気の利いたことなんか言えないけれど、男性はなんとなくいつも女性の姿を街の人ごみに探してしまう。
その様子がとても切ないのですね。
はっきり、つきあってとは言えないとわかっていても、どうしても目は街の人々の中にいるだろう女性の姿を探している。

ジョン・カーニー監督の映画を観たのがこれが初めてで、この後、『はじまりのうた』『シング・ストリート』と音楽を題材にした映画を作っています。時系列的には、10代でバンドやる『シング・ストリート』、アマチュアで街で弾き語りをする『Once ダブリンの街角で』、デビューしてアメリカにわたるけれどという『はじまりのうた』になります。

GUY役のグレン・ハンサードは、アイルランドのミュージシャンで『シング・ストリート』では音楽監督をしています。

ぱんぱかぱ~~んと恋愛成就にはならないけれど、お互いを尊敬しあって、いたわりあうことができた、そんな人に会えた、それが嬉しい。そんな気持が一番に出ている映画で、重いものを背負いながらも、尊敬しあう2人の姿は、暖かくて、切なくて、そして、とても優しい。切なさと胸がホカホカするような気分になる、そんな「小さな小さな宝物」のような映画です。
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