ぐりこ

ONCE ダブリンの街角でのぐりこのレビュー・感想・評価

ONCE ダブリンの街角で(2007年製作の映画)
3.9
『シング・ストリート』『はじまりのうた』と遡ってきて、たどり着いた当作。粗削りだけど、続く2作品で開花するジョン・カーニー節が見てとれた。
主人公の背中を押す家族の温かさ、バンドメンバーを集める高揚感、そして何より音楽への厚い厚い信頼。音楽でつながった男女を描くセンスは抜群だと思う。

ダブリンの街角で出会ったストリートミュージシャンの男(グレン・ハンサード)と通りすがったチェコ移民の女(マルケタ・イルグロヴァ)。
ひょんなことから交流を始めたふたりは、一緒に曲を作り仕上げていくと同時に心の距離も近づいていく。
女がウォークマンの切れた電池を娘の貯金箱から「ちゃんと返すからね」と借りたお金で買い替えるシーン、続く、そのウォークマンでふたりの曲を聴いて歌いながら夜の街を歩く女を長回しで捉えたシーン、この一連はとても素敵だった。

曲は完成し、バンドを集めて、レコーディング。
バンドメンバーを集めるシーンやスタジオのやる気のなかったエンジニアがその気になっていく様子は小気味よい。

そうして完成した曲を持って男はロンドンへ。
ロンドンに住む元カノに連絡する男、離れて暮らしていた夫を待つ女、ふたりの心を結んだ曲が流れながらも、別々の場所にいるのは切ないラストシーンだった。
男は女をどこまで本気で好きになったか、女は断りながらもやはり男に魅かれていたのか、明確には語られない。男がロンドンへ発つ最後の時間、気持ちを確かめ合う時間は訪れなかったまま、、、ふたりはそれぞれの居場所で上手にやり直せるのか。はてさて。

曇天のダブリンのくすんだ景色にちょうどいい、キラキラしすぎない素敵なラブストーリーだった。

(雑感)
・名前が出てこないなぁと思ってい観ていたら、エンドクレジットでも"Guy"と"Girl"だった。
・男を送り出す父には『シング・ストリート』の兄貴を重ねたし、バンドを集めるシーンもそうセルフオマージュ。
・絶対に吹き替えで観てはならない(歌の歌詞が重要なのにそこは吹き替えにならず字幕も出ないという噂)
ぐりこ

ぐりこ