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気まぐれな唇のmaverickのレビュー・感想・評価

気まぐれな唇(2002年製作の映画)
4.1
2002年の韓国映画。監督は国内外で多数の賞を受賞するホン・サンス。

本作はホン・サンス監督の初期の作品で4作目にあたる。2002年の作品ということで多少の古さを感じるものの、これも味。『よく知りもしないくせに』、『次の朝は他人』、『ハハハ』と、自分の中でもホン・サンス監督作は4本目の鑑賞。この監督の作品性、やっぱり好きだな。


すぐにホン・サンス監督作と分かる作品性。特に何があるわけでもない。ごくごく普通の人々を描いており、その生活を切り取ったリアルなやり取りに人生や人間を感じさせる。映画やドラマ特有の盛り上がる演出は皆無。ただ淡々と撮られた作品だ。でもここに引きつけられる。それはこの作品に嘘を感じないから。話の流れや言葉ひとつひとつがとても自然で、まるで日常そのもの。そこに観る側は自身を重ね合わせて共感してしまうのだ。

世間にはさほど認知されていない舞台出身の若手俳優が、知人を訪ねた先で印象的な二人の女性と出会う話。この俳優は舞台で人気があり、ルックスも良いのでよくモテる。出会う二人ともそういう仲になるのだが、映画スターのようなカッコよさはなく、情けなさが節々で漂う人間味を感じさせる男なのだ。恋に関してもだらしない男なのだが、何故かモテるのもよく分かる気がする。同じ顔が良い男でも、完璧人間よりどこか情けなさが垣間見えた方が母性本能をくすぐられるのだろう。「私がこの人の支えになってあげたい」と。女性二人もすぐにこの男に惹かれて節操がないのだが、これがまた生々しくリアルで。そういう関係を女性も求めているのだなというのが自然に見て取れる。どちらかというと女性の方が積極的に描かれているが、男だって女だってそういう関係を本能で求める部分はある。でも最終的には求めている方向性が男と女で違うのがまたリアルを感じさせたな。

主人公を演じるのはホン・サンス監督作の常連でもあるキム・サンギョン。まだ初々しいのが見所でもある。それもそのはず、本作が映画デビュー作とのこと。それでもとても自然体で新人とは思えない。この直後に『殺人の追憶』で大ブレイク。甘いルックスだけでなく演技力も非常に高い優れた俳優だ。
二人のヒロインを演じるのはイェ・ジウォンと、チュ・サンミ。二人とも出会った瞬間に魅力的なのが伝わってくる。演技もめちゃくちゃ自然でお芝居とは思えない。艶っぽさもあって、そこで女性の美しさを表現していた。個人的にはチュ・サンミが演じたソニョンが好き。可愛らしさと美しさが同居した素敵な女性だった。


主人公も二人のヒロインも、取る行動は誉められたものではない。でもそれを含めてとても人間的なんだよね。注目すべきはそこに至った経緯。本作のようにそこをリアルに切り取って見せられると大体の人は納得させられると思う。この気持ち分かるなと。「人として生きるのは難しい。でも 怪物になってはダメだ」劇中のこの言葉が全て。そう、みんな聖人君主なわけじゃない。時には道を踏み外すだろう。でも怪物になる前に思いとどまれよと。劇中の蛇の話もこの作品を象徴している。淡々としている中にもしっかりこの監督の作品性が表現されているわけだ。ホン・サンス監督はやはり優れた監督だ。

韓国と日本。同じアジアでお隣だから似たような部分も多いなと思ったり。景色も日本と思える場所が多々あって面白かった。あとサルビアね。自分も子供の時に蜜をよく吸ってたな(笑)。
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