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ミステリー・トレインのGreenTのレビュー・感想・評価

ミステリー・トレイン(1989年製作の映画)
2.0
日本のロック・ファンのカップルが、エルビス・プレスリーゆかりの地、メンフィスを訪ねてくるところから始まります。

この2人のアメリカの旅の描写が、自分が最初にLAを訪れたときのフラッシュバックか?!と思いました。近代的な日本に比べて、カビ臭く古臭い建物。観光に来たんだからと歩きまわると、シャッターがしまった店ばかりの通りが延々と続く。バーやレストランは、営業しているのか、なんの店なのかもわからない。

そんな中で見つけたホテルは、すっごい汚くて古臭くて、危ない人が泊まっているようなところ。あのカーペットに座れる神経がわからない(笑)

英語もわかっているようなわかっていないような。

著名なロカビリーのスターたちがレコーディングをしたサン・スタジオを訪ねると、あまりにボロくて通り過ぎてしまいそう。一応ガイドが説明してくれるが、早口で何を言っているのかわからない。

次の「外人」は、イタリア人の女性で、日本人のロック・ファンと同じホテルに泊まるハメになるのですが、さすがにヨーロッパ人は英語も喋れるし、カフェの場所も分かるので、コーヒー飲んでいると、ローカルの山師みたいなヤツが見え透いた作り話をして近寄ってくる。外人だと分かると、新聞を買いに行っただけでも、口八丁手八丁でぼったくられる。

最後の「外人」はイギリスからの移民で、工場の仕事をクビになったばかり。アメリカに来るきっかけになったアメリカ人女性には去られ、犯罪に巻き込まれる。

『ゴースト・ドッグ』を観たとき、ジム・ジャームッシュは「白いフェンスに緑の芝生」という「作られたアメリカ」ではなく、「時代に取り残され手入れもされていない、本当のアメリカ」を写すなあ、って思っていたんですけど、『ミステリー・トレイン』は、特に「外人の目で暴かれる本当のアメリカ」なのかなあと思いました。

私も「ロックのゆかりの地」と言われるような場所を訪ねたことは多いですが、そのたびに「あれ?アメリカってこんな汚くて古臭いんだ」と思うのですが、完全に「America is great!」で洗脳されていたから、「こういうのが風情があるってもんだ。日本はキレイ過ぎて面白くない」って思ってた。劇中の日本人の若者が、なんにも見るところがない汚い通りにキャディラックが止まっているのをすごいありがたがるのがもう恥ずかしいくらいでした。

という共感点はあったものの、話が激つまらない。ジム・ジャームッシュ監督は、プロットはどうでも良くて、場面場面を絵画のように切り取って見せるのが好きなんだろうなとは思うのですが、それにしてもこれは面白くない。コメディ要素があると言われているけど、一回も笑わなかったし、あまりにベタなセリフ、ベタな展開ばかりで、イライラしたくらいだった。

特に日本人のカップル!!男は無口で、女の子はやたらキャピキャピ愛想が良いという完全な白人目線のステレオタイプ。スーツケースに書いてあるカタカナとか「白人が書いたカタカナ」だし。あんなの持ってる人いないよ!って言いたくなるような。

英語通じないところとか、これって1989年でしたっけ?当時の「自分は外国に理解がある」と思っているアメリカ人たちは「可愛らしいわ〜」ってバカウケしたんだろうなあと思うが、あまりにベタすぎる。

あと、エルビスが仏像とかマドンナとか、アラブの人だっけ?に似ている、って言うのって、アメリカ人には衝撃なんだと思った。私もアメリカ人に、「でも髪(目)の色がちがうじゃない」とか、「白人と日本人が似ているわけない」とか言われたことある。今はもっと国際化したと思うけど、昔アメリカ人ってそういう視野が狭いところがあったから、日本人が白人と他の人種、違う性別を「似ている」って思う感性を奇異に、そして新鮮に感じたのでは?

演じているのが工藤夕貴と長瀬正敏なんですが、「学芸会かよ!」ってくらいぎこちない演技でもう観ているのが苦痛だった。特にベッドシーン!キスから乳まさぐる動作から、腰動かす動作から、なんだか躊躇が感じられる「演技!」って感じで見ている方が恥ずかしくなる。女の子がイクところとかもわざとらしいし、男はイッたのかなんだかさっぱりわからない。なんであれでOKシーンなのかも、もっと言えばあのシーンの必然性が全くわからない。

イタリア人女性がアメリカ人女性と同室になってしまうシーンは、爆睡した。途中起きたけど、巻き戻してみる興味さえわかず、そのままスルーした。

自分が日本人だから、日本人をアメリカ映画で見るのが照れくさいのかなと思ったけど、このイタリア人女性も、イタリア語を喋っているシーンがすごい誇張されている気がしたし、最後のエピソードでイギリス人男性を演じるジョー・ストラマーも「やっぱ演技は上手くない」と思った。『コーヒー&シガレッツ』のイギー・ポップのようだった。

スティーブ・ブシェミを始めとする、アメリカの個性的な俳優さんたちも、全く生かされていないと思った。ブシェミは、脚本が良くない映画で見ると全く輝かない。今回も、もっと面白いこと言わせれば立つキャラなのに、セリフが良くなくて、本人もどう演じていいのかわからないんじゃないかと思うくらい歯切れの悪い演技をしている。

ジョー・ストラマーが出てるセグメントでは、セリフの端々に「本当のアメリカ」を鋭く暴くところはある。黒人が受付にいるホテルなのに、なんでエルビスの絵が飾ってあるんだ?黒人にもメンフィスゆかりの偉大なミュージシャンはいるだろ?って言うと「ホテルのオーナーは白人だから」とか。クビになってくさっているジョー・ストラマーに「何を怒っているんだ?この辺では仕事があるだけマシなんだぞ」みたいな。

『コーヒー&シガレッツ』もオムニバスだったけど、あれはなんか一つのテーマに集約されていくような、それぞれのお話につながりを見い出せたので面白かったし、あと喋っている内容が結構笑えたけど、『ミステリー・トレイン』は、同じ地で同じ夜を分かち合った人たちの話なのに、メンフィスの外人、という共通点しか見いだせないし、それがまた「だから?!」って感じで納得出来ない。「外人の目から見た寂れたアメリカ」を楽しむだけだったら写真の方がいいなあって思う映画だった。
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