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ミステリー・トレインのベイビーのレビュー・感想・評価

ミステリー・トレイン(1989年製作の映画)
4.2
ロカビリーの聖地として知られるメンフィス。その地はロカビリーの"キング"こと、エルビス・プレスリーの出生地としても有名です。

そのエルビスを軸に、とあるホテルで三組からなる三つの物語が重なります…

またジャームッシュ監督らしく派手な演出を施さない平坦に進んで行くストーリー。まるで車窓から眺める景色のように、緩やかに移ろいを見せながら、元とは違う場所へと導いてくれます。

それは「行き先の分からない列車」に乗せられた気分。「ミステリー・トレイン」というタイトルにふさわしい内容でした。

この物語に登場する三組の人物たちは、同じ日、同じ時刻、同じホテルで隣り合わせになるのですが、でも結局最後まで互いの存在を知らないまま物語が終わるんですよね。その夜の前後に街や車両で顔を合わすものの、それがストーリーに直接関係しないんです。そこが本当にオシャレなんです。

それぞれの人生があり、それぞれがメンフィスに立ち寄り、それぞれがホテルに導かれ、それぞれの夜を過ごすとき、AM2:17 ラジオからエルビスが歌う「ブルームーン」が流れ始めます…

ジャームッシュ監督は、その共有された時間と、固定された空間と、平坦ながらも移り行く変化を演出することで、あのホテルを"列車"に見立てたのではないでしょうか。

人生を「行き先の分からない旅」とするならば、この物語はその旅の途中で交錯する人間模様。登場人物たちは、同じ列車に乗り合わせた乗客のように、僅かながらの繋がりの接点があったにせよ、目的地にさえ着いてしまえば、またそこから三々五々に自分の人生を歩みます。

そんな人生の可笑しさを「ミステリー・トレイン」というタイトルに詰め込んでしまうのですから驚きですよ。今までなにも接点のなかった三組をこうして神の目線で描くことで、とても味わいのある物語にしてしまうのですから本当に不思議です。センスの塊としか言いようがありません。

それと他に、やっぱりジュンとミツコが良かったです。一番好きなのは、ピエロの口紅から足でタバコの火を着けるまでの一連の流れ。二人がとても可愛らしかったですね。それとブシェミがやっぱりいい味出してましたよ。あと、映像も音楽もセリフも全部オシャレで最高です。

もっともっとジャームッシュ監督作品を観てみたい。と、そんな欲求を掻き立たせてくれる、とても素敵な作品でした。
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