幕のリア

ステロイド合衆国 〜スポーツ大国の副作用〜の幕のリアのレビュー・感想・評価

4.5
前々から見たかった作品。
新宿TSUTAYAでたまたま発見。

アイアンシーク、ハルクホーガン、ハックソージムドゥーガンら往年のWWFスーパースターに始まり、ホセカンセコ、バリーボンズといったメジャーリーガー、シュワルツェネッガー、ベンジョンソンに至るまで、スポーツ界に巣食うステロイド問題を面白おかしく扱った作品。
いや、それだけの薄い内容ではなかった。

原題「BIGGER,STRONGER,FASTER」
より大きく、より強く、より速く
副題には、アメリカ人であることの影、とある。

話は、スポーツ選手だけにとどまらず、勉学にいそしむ学生、楽団奏者、軍人にまで及ぶ薬物問題全般に至る。

監督は三人男兄弟の真ん中、彼らは一様にデブでイケてない幼少時代を過ごすが、アメリカンプロレスへの憧れから体を鍛えて、思春期の壁を突破する。
長男はステロイド大歓迎の前座レスラーに。
三男もステロイド使用でウェイトリフティングの記録に挑む。
次男の監督はステロイド使用に踏み切らない豆タンクで居続ける。
家族の現実を父母も交えて赤裸々に語る姿勢も素晴らしい。

アメリカのマッチョ思想。
80年代までは、ただかように突っ走っていれば良かった。
薬物だけに限らず、虚構の札束や銃弾などありとあらゆる物を、摂取したり、撒き散らしたり、ぶっぱなしながら、国をより大きく、より強く、より速く、見せていれば良かった。
もはやそれが実体の伴うかどうかなど構わない。
この時代までは、虚飾だらけのそんな華やかな世界に、虚飾だらけだからこそ、アメリカ人のみならず、世界中が憧れていた。

どこまでがフェイクなのか
何が、心を、体を、蝕んでいるのか
成功とはバレずにうまくやり遂げることなのか
正しく生きるとは何を指すのか

アメリカ社会にはびこる強迫観念と薬物漬けの現実を、軽妙かつ真摯に捉えようとしている。

正直、何かに依存してでも、困難を乗り越えようとしなければ、自力では前に進むことなど出来ないんじゃないかと、鑑賞後に苦い思いに囚われた。
幕のリア

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