pika

赤い砂漠のpikaのレビュー・感想・評価

赤い砂漠(1964年製作の映画)
4.5
厭世的な画面とテーマが極上で、シーンひとつひとつにドラマはあるのに連続出来ない不条理さがとにかくたまらん!
陰鬱な工場と波止場、霧の中に浮かぶ船と殺風景な街並み、朽ちかけ寸前のような小屋や汚染された水たまりの中をアンニュイ美女のモニカ・ヴィッティがフラフラと闊歩する、そんな画面を見ているだけでグッとくるのにホラー映画かと見紛う耳障りな心地良い音と、精神を何処かへ置いてきてしまったような様子、現実と幻想との境目を揺蕩う展開がめちゃくちゃ面白い。

半世紀以上前の映画なのにミニマムな叙情性に同調してしまう作品の力強さ。
ショットの隅々にまで存在感があり、カットの積み重ねが抑圧された感情の叫びを溢れ出す。
全てのシーンが魅力的で、人々の映し鏡のように共感を呼び込む幻想が素晴らしい。

タルコフスキーが「自分に一番近い監督はアントニオーニ」と語っていてイマイチピンとこなかったが今作を見てなんとなく繋がってきたような。カメラに映す対象の見方や役者とテーマの置き方などの表現、観客に対して悲観的ではなく厭世的な世界の視点を共有させてしまう独特な空気感など、アプローチは全く別物でもそんな感性や映画に対する意識が近いのかもしれない。
pika

pika