革芸之介

赤い砂漠の革芸之介のレビュー・感想・評価

赤い砂漠(1964年製作の映画)
4.5
炎を噴き出す工場のロングショットからキャメラはパンをして工場の前に立ちつくす人々を映し、次のカットで緑色のコートを着たモニカ・ヴィッティが画面奥から手前に歩いてくる。このモニカ・ヴィッティの登場シーン凄いカッコいい。薄暗くて冷たい曇天の画面に緑のコートだもんなぁ。この色彩のアンバランスな感じが素晴らしい。

レトロなSF映画を思わせる工場地帯の無機質な描写。とにかく曇天の風景に工場から大量の煙が立ちのぼるので画面がより灰色に覆われる。ちょっと大げさな言い方になるけど煙までも演出してしまうアントニオーニ映画のマジック。

曇天や灰色だけではない本作の「色彩」のこだわり。緑のコートのモニカ・ヴィッティが工場の中を歩いている途中で出てくる赤いパイプ管。緑と赤の交差。赤いドラム缶。青緑のガラス玉。家の青い手すりと青い壁。部屋の中の壁については緑や赤い壁まで出てくる色彩感覚の多彩さが興味深い。

本作のモニカ・ヴィッティは精神を病んでいて言動が少し狂ってるし感情の起伏が激しい。そんな彼女が船に関心を抱くのだが、その船が突如画面にフレームインしてくるのが唐突で奇妙で不思議で不気味。

だだっ広い荒野に数えきれないぐらいの送電鉄塔が画面奥の地平線の彼方にまで並んでいる風景や霧につつまれた中での人物の配置や動かし方が幻想的で面白いのだが、これらのショットがもろにアンゲロプロスの映画っぽい。アンゲロプロスにも多大な影響を与えたアントニオーニって、やっぱり偉大だなぁと改めて認識しました。
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