ピースマイル

戦場にかける橋のピースマイルのネタバレレビュー・内容・結末

戦場にかける橋(1957年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

この手の映画は本当に評価に困る。
「戦争史実ものフィクション」とも言える内容だからだ。
まず、戦争ものというジャンルというだけで、人が無数に亡くなっている以上極めてデリケートな問題がある。

次に、史実に基づいているのだが、それは「橋を建設する」という点においてのみで、人物や人数、経緯などは全く違う。そういう意味でフィクション だ。

つまり「事実とは全く違う歴史物」なので、観る側のリテラシーが大いに試され
るし、ましてやアカデミー賞受賞作なので与える影響力もハンパなもの ではないわけだ。

僕自身、観ていて日本人の描き方として納得できない箇所は山ほどあるし(逆に脚色としては素晴らしい点も多い)、敗戦国なので仕方のない部分はあるというのも分かっている。
あーだこーだ言っても結論は絶対に出ないのだから、ここではあくまでも映画としての面白さについてのみ考える。


改めて、映画の出来としては。。。
めっちゃくちゃ面白い。
三時間近い映画ながら、まったく長いと感じない。
そして、50年以上前の作品ながら、一切古くさいとか退屈とか思わない。
CGがないことのデメリットも全く感じない。
むしろラストの爆破シーンなどは「え、これもしかして実写で撮ってるの?」とむしろそっちに驚く。

映像面での素晴らしさもさることながら、まずは映画全体の作りがほぼ完璧。
主人公格にあたる人物が4人ほど出てくるのだが、そのキャラの位置づけが実に見事。
戦争という現場においてその人物達が皆、間違いなく正しいし、逆に決定的に狂っている。

「絶対に信念を曲げないイギリス将校」が一見ヒーローのようにも写るのだが、彼もまた戦争にとらわれた狂人であり、見方を変えればマニュアル通り にしか動けないただの歯車である。しかも、最後にはマニュアル通りに動くことすら自分の信念のために放棄してしまう。

「信念を曲げてしまった日本人将校」は、信念のうえでは全てにおいて敗北してしまうのだが、結果としては一番の利を得る成果をあげる事になる。

「一番自由であることを愛するアメリカ兵」は、最後の最後に愚かな判断をして
命を落としてしまう(愚かな判断というのは、あくまでその人にとって)。

「物事を一番客観的に見ている医師」は、知的にバランスよく振る舞っているように見えて、結局は何も成し遂げられず全てが壊れていくのを観ている だけしか出来ない(この人が映画を観ている観客の代弁者でもある)。

キャラクター同士が裏表の関係になっており、しかもそれがクルクルと裏と表が入れ替わったりもする。

日本人にとっては目にしたくないシーンも多いが、キャラ毎の善も悪も明確にしていない為ある意味ではフェアに描いているとも言える。

「大脱走」がそうであるように全体を通して「クワイ河のテーマ」を代表に明るく雄々しい曲が流れる。
しかし、その明るい曲が流れた時こそ要注意で、その裏では明らかに人間が少しずつ歪んでいく対比となっている。
このへん、なんで今の映画業界では減ってしまったのか分からない。
ジョン・ウィリアムスの音楽がそうであるように、映画で起こっていることの補足のような音楽ばかりが多い気がする(あ、ジョン・ウィリアムスは大 好きですよ)。

ラストの爆破シーンによって、この映画は最終的に「三時間かけた映画を完全な振りだしに戻す」という結論で終わる。
劇中描かれないがおそらく斉藤将校も責任をとる結果となるだろうから、この映画においては「誰一人、何も成し遂げられず、死者だけが大量に発生する」結末だ。

この映画を踏まえてなお、何故アメリカはベトナムへの戦争へと向かっていったのか。
ベトナム戦争の結末もまた、この映画の結末と非常に近しいものがある。