うめ

秒速5センチメートルのうめのレビュー・感想・評価

秒速5センチメートル(2007年製作の映画)
3.7
 昨日の『言の葉の庭』に続き、新海誠監督作を鑑賞。短編3話からなる連作で、全体で1時間ほど。その中に青年期までに経験する恋の「切なさ」がぎゅっと盛り込まれている。

 3話の内の第1話「桜花抄」は、主人公の遠野貴樹と同級生の篠原明里の再会と別れを描く。12〜13歳の、小学校から中学校に上がる頃の二人の交流を描いていており、初々しさを感じると共に所々とても懐かしかった。貴樹と明里の文通や貴樹が明里に会うために都内から栃木へ一人で向かう描写などは特に。ただ13歳でこんな恋は経験したことがないので、「ませてるなぁ」なんて思ってしまった(笑)

 第2話「コスモナウト」は明里との再開後、鹿児島は種子島へと引っ越し数年が経ち、高校3年生となった貴樹と同級生で貴樹に恋をしている澄田花苗との交流を描く。この回は種子島という舞台もあり、宇宙的なイメージや星空といった描写が印象的。色々な意味が読み取れるだけでなく、新海監督お馴染みの透明感が画面いっぱいに表現されている。

 第3話「秒速5センチメートル」は連作の総まとめ。20代になった貴樹と明里。それぞれのモノローグよって綴られる記憶。そして季節が巡り、桜の花びらが降る季節を迎え…。ラストの話はもうほとんど説明がない。リアルな街の景色が語りかけてくるのみ。そのシンプルな演出がラストにはちょうどいい。

 今作も新海監督による風景へのこだわりが行き届いている。駅のホームや電車内、学校の教室、散らかった部屋など、全体的に緻密でリアルなのは相変わらずだが、今回はそこに温かみのある光が掛かっているのが特徴的だ。電車内の照明、朝日、夕陽、夏の夕暮れなど、橙色の温かさが登場人物たちを優しく照らしているように見えた。

 一方で登場人物たちは、とても弱く、脆い。モノローグでは詩的に心情を語るにも拘らず、相手にはうまく想いを伝えられない。こうした設定は思春期らしいと言えばらしいが、少し単純な気もする。だが、前述の背景の描写と対照的で、「切なさ」がぐっと際立つ形にはなっていると思う。

 あとは『言の葉の庭』でもそうだったが、ラストからエンディングへの流れ、曲の流し方が素晴らしい。主題歌は山崎まさよしの「One more time, One more chance」。監督も大学時代によく聞いていたという名曲。そのためか曲の雰囲気が今作の雰囲気にばっちりハマっている。この曲を聴くだけでも胸に来るものがあるのに、あんな流れを持ってこられたらぐっと来ない訳にはいかない。山崎まさよしは好きな曲がたくさんあるけれど、改めてその良さを噛み締めることができた。

 現在だからこそ、貴樹、明里、香苗の気持ちがよくわかる。どんな恋であれ、必ずある「瞬間」が訪れる。時が止まる瞬間。はらはらと落ちる桜や雪さえも止まり、シャッターを切ったかのように、時を止めて胸に留まり続ける光景がきっと、貴樹にも明里にも香苗にもあるはずだ。どんな状況になっても、相手への想いとその光景さえあれば大丈夫、「きっと、大丈夫。」恋愛に限らず、皆そんな愛ある光景をたくさん胸に抱いて、前へと進んでいるのだろうな。

 今作が東京、栃木、鹿児島と舞台が動いている一方で、今作の後に制作された『言の葉の庭』は舞台が動かない。この対比もちょっと興味深かった。どちらも日常の行間を切り取った作品なので、合わせて観てみるのもいいかもしれない。