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キャピタリズム マネーは踊るの東京キネマのレビュー・感想・評価

4.1
久しぶりにマイケル・ムーアを見ましたが、やっぱり面白いですね。 ウィットやユーモアもあるし、音楽もいいし、構成・編集も抜群にうまいです。

原題は「CAPITALISM: A LOVE STORY」です。 「愛のお話」 ですって。 この諧謔のセンス、私は大好きです。 これが邦題になると、何故か「マネーは踊る」です。 いやはや、生きのいいマグロを新聞紙で包んじゃったようなこの違和感。 さすが日本の配給会社ですね。(笑)

内容に関しても、驚きの取材が盛り沢山です。

アメリカでは強制執行に警官がピストル持って集団で来るのも驚きですが、ドアをブチ破るまで平気で生活している債務者も凄いです。 カネ払えないんだからしょうがねえじゃないか、と全く動じる風もありませんし、あんたも同じ労働者じゃないかと警察官を懐柔したりします。 日本じゃ考えられませんね。

その他にも、親や友達とケンカした程度で青少年を片っ端から収監して大儲けする民間運営の少年院の話や、生活保護を受けながらじゃなきゃ生活できない低収入のパイロットの実態、ファンドの担当者から役員まで誰も「デリバティブ」の説明が出来ない証券業界などなど、一体資本主義はどうなっちゃってるのよ、と言いたくなるような話ばかりです。 まるで2年後のオキュパイウォールストリートを予言しているようです。

でもね、資本主義が悪だって結論を出したくなるのも解りますが、それで放りっぱなしにしちゃうと、じゃあ何かい、スターリンや毛沢東に出てきて欲しいの?ってことになっちゃうんで、もうちょっと落しどころを整理して欲しいなあとは思うんですけどね。

どうも犯人は、行き過ぎたグローバリズムだろうと思うのです。 これは本来の資本主義とは違うものです。 儲けりゃなんだっていいっていうのは、民主主義が発生する以前の原始経済です。 原始的資本主義が近代資本主義になったのはプロテスタンティズムの影響ですが、ユダヤ教にしてもキリスト教にしても、そもそも金儲けは悪だった訳です。 しかし何故キリスト教の国にだけ近代資本主義が成立したかと言えば、「平等」 「隣人愛」 というのが根幹にあるからで、人が望む物やサービスを提供することが善行とされるからです。 カルヴァン以前のヨーロッパには「定価」という概念さえもありません。 それまでは金持ってそうな人にはふっかけて売るということが当たり前だった訳ですし、資本主義の精神(キリスト教の禁欲的な倫理観)がなければ近代資本主義は成立しませんでした。 これはマックス・ウェーバーの言う 「エートスの変換」 がヨーロッパで起きたからなんですよね。 つまり、プロテスタンティズムの洗礼を受けた国以外は、近代資本主義に移行できなかったのです。

かつてはアラブにも絶大な経済がありましたし、現在でも中国や韓国も経済は大きくなっていますが、本当の資本主義はありません。 特に特亜の国のビジネス・モデルは外形的に見ると非常に単純で、要は 「パクリ」 と 「踏み倒し」 です。 「利他」の精神はかけらもありませんし、日本やヨーロッパの考える資本主義とは根本的に違うのに、こういったものを一緒くたにするからおかしくなるんです。

アメリカのウォール・ストリートが考えるグローバリズムが何故ダメかと言えば、国のシステムを破壊してしまうことなんですよね。 それぞれの国によって環境や状況が違いますし、そういったことを法律で守っている訳ですから、グローバリズムで浸食されれば近代資本主義の精神の基本にある 「利他」 はなくなり、地場の産業を根こそぎ破壊して人が死ぬから非難されるのです。

キリスト教の国でしか近代資本主義は成立しなかったのですが、唯一の例外が日本です。 これ突き詰めて考えると面白いんですけど、皇祖皇宗がお父ちゃんで臣民がその子供、つまり日本人はすべて家族だってことがその理由なんじゃないかって思うのですよ。 家族だったら人を騙して金儲けするなんてことは考えないですからね。 この映画を見て改めて思ったんですけど、矢張り日本人て凄いなあと思いました。 最近日本もヘンテコリンになってきましたけど、でも良くみるとグローバリズを叫んでた人たちって基本的には大陸・半島系か、拝金主義者だけですから、今日本人自身が気付いてやるべきことをすれば未だ間に合うと思うんですけどね。


またまた話が明後日に行っちゃいましたが、こういった映画を日本人が沢山見てくれたらTPP反対の「エートス」になっていたかもしれないなあ、と個人的には思いました。
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