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バットマン ビギンズのよーだ育休準備中のレビュー・感想・評価

バットマン ビギンズ(2005年製作の映画)
4.0
幼少期に目の前で両親を殺されたゴッサムの名家の嫡男は、やがて犯罪者の心理を学ぼうと各国を転々とするようになる。彼がアジアの寒村で収監されていた際〝正義を実行し、世界のバランスを取る為に活動している〟という《影の同盟》の盟主代理が訪ねてくる。

復讐に囚われていた一人の男が、ゴッサムのシンボル《バットマン》となるまでの過程を、ダークな色調で骨太に描き出す。


◆ Why do we fall?

鬼才C.Nolan監督の手によって、従来の四作品とは趣を異にして制作された【ダークナイト・トリロジー】の記念すべき第一作目。過去の映像化作品にみられた『アメコミであることを強調したような軽快さ』は微塵も感じられません。今作の中に、清廉潔白で無敵のヒーローは何処にもいませんでした。今作では《バットマン》のオリジンにスポットが当てられていますが、それは『血の滲むような努力』と『強靭な意志』、そして『第三者の影響力』によって過去のトラウマを克服し、自らを鍛え上げた一人の男の物語として描かれています。

①トラウマとなった幼少期のイベント
ー 古井戸で蝙蝠の群れに襲われた事。
ー 目の前で両親が強盗に殺された事。

②アヴェンジャー(復讐者)からの脱却
ー 両親を殺した犯人への復讐計画。
ー それを知った幼馴染からの非難。

③道を見失ってしまった現在の姿
ー 影の同盟での命を懸けた鍛錬。
ー 信念に反する同盟からの離脱。

作品の前半部分は①②③が上手く織り交ぜられて進行する事で、Bruce Wayne(Christian Bale)の骨太なバックボーンが描かれていました。幼少期に彼の心に刻みつけられた根源的な恐怖。彼が畜生道に堕ちかけた時に目を覚まさせた、幼馴染であり正義の心を持つ検事補Rachel Dawes(Katie Holmes)の存在。そして、自暴自棄になっていた彼に、悪と戦うための心得を授けたRa's al Ghul(Liam Neeson)との出会い。

いきなりコウモリのコスプレをしたお兄さんが出てきて怪人と戦うよりも、はるかに説得力があります。アメコミ原作の作品ではありますが、決してファミリー向けではないリアルな質感はとても良い。Hans Zimmerが手掛けた重低音を基調とした劇伴も、ダークな色調の今作にマッチしていました。


◆ So we can learn to pick ourselves up.

不況にあえぐゴッサムの現状を嘆いた資産家であるBruceの両親は、資材を投げ打って街の変革を試みたものの、皮肉にも貧困層の凶弾に斃れてしまいました。両親の失敗から学んだBruceは、『無関心な人間を動かすには衝撃的な何かが必要だ。』と考え、常人を超えた(汚職と腐敗が蔓延るゴッサムを牛耳る裏社会のボスFalcone(Tom Wilkinson)の影響力を凌駕するほどの)《恐怖のシンボル》を目指します。

バットマンといえば、同じDCコミックス出身のスーパーマン(宇宙人)やワンダーウーマン(デミゴッド)、アクアマン(海底人)とは違い、あくまで生身の人間がハイテクガジェットの力を借りて戦います。お馴染みのバットスーツやバットモービル、グラップネル・ガンは、《Wayne社の応用科学部によってデザインされたボツ作品》という設定で描かれているのが、個人的には面白いなと。唐突なコミック感をできるだけ排除した世界作りに拘りを感じます。

加えて、ウェインコーポレーションは現社長であるEarle(Rutger Hauer)の影響力が強まり、武器ビジネスを中心とした経営へと大きく方針転換されようとしていました。そんな中、優れた技術者でありBruceの理解者でもあるFox(Morgan Freeman)が開発したガジェット(ボツ作品)が、今作のヴィランに奪取された軍事用機器に打ち勝つ展開も小技が効いていました。ゴッサムも救って会社も救った大団円は、ヴィランの言葉を借りれば『バランスが取れて』いますね。このヴィランの退場も〝昔は助けたけど今回は助けない〟で〝落ちる〟というもの。これぞ演出の妙。


Wayne夫妻の没後20年、モノレール車内の荒み切った様子から、Bruceが帰ってきたゴッサムは一層酷い状況に陥っていることが窺えました。荒んだ世界で、さらに人々の分断を煽るような攻撃を仕掛けてくるヴィランScarecrow(Cillian Murphy)の起用もよかった。街全体が敵に回ってしまうような中でも、数少ない頼れる味方が居るのは心強いですね。両親の残した邸宅は焼き払われ、父の敷設したモノレールは破壊されてしまいましたが、ここから《這い上がってこそ》のバットマン。父親の遺した言葉が沁みます。


人は何故落ちるのかー。
ーそこから這い上がるためだ。


*雑記*
まだレビューしてなかった今作。好きな作品ほどレビューするのに勇気がいる質でして、本当は【ザ・バットマン】を劇場鑑賞する前にレビューするつもりだったのにずーっと二の足を踏んでいました。
今回、Sakiちゃんが一緒にレビューしてくれることになり、満を持して投稿できました!ありがとー!!