しゅん

夜行列車のしゅんのレビュー・感想・評価

夜行列車(1959年製作の映画)
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(東京都写真美術館、ポーランド映画祭)

もしヌーベルバーグの作家がチェーホフを原作に映画を撮っていたら本作のようになっていただろう。あなたがわたしのことを知ったとしても、結局あなたはわたしを知らない。わたしもあなたを知らない。夜行列車の一夜を舞台にした移動する密室劇は、市井の人々の人情と個人に訪れる孤独が容易く両立することを証明する。感情の共同体はこの世界においてあまりに無力だ。窓を開け放てば、ムーディーなジャズは轟音に掻き消される。それでもこの夜は、全く無駄だとも思えない。たとえあなたがわたしを知らないとしても、なにもなかったことにはならない。本作は人間同士が結ぶ関係性の脆弱さと強固さの振れ幅をダイナミックに示すことに成功した傑作だ。『市民ケーン』並の奥行きの深さの上で、複数のドラマが一つのスクリーンを共有する。なにが素晴らしいって、シリアスな振りしてめちゃくちゃくだらない笑い話だし、爆笑もできるってことだ。特に、野次馬根性だけで群衆が野原で追いかけっこを始めるシーンは必見。
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