優しいアロエ

どですかでんの優しいアロエのレビュー・感想・評価

どですかでん(1970年製作の映画)
4.3
黒澤明初のカラー作品となった、貧困スラムの群像劇。物乞い、不倫、窃盗、暴行、障害など、色々な要素が各家族に散りばめられている。
(これを一家族に凝縮すると『万引き家族』になる)
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寂れた地区に住む人々の日常が、妄想電車を走らせる「電車バカ」こと六ちゃんと、主婦たちの井戸端会議を狂言回しに語られていく。

特筆すべきは、トム・フーパーも顔負けの人工的なセット。トタンを重ね貼りした壁や煤けた感じなど、貧しさが強調されており、「さぁ、ここで撮りたいものを撮るぞ」という黒澤明の意気込みを感じる。
 また、その色彩感覚も面白い。モノクロ映画を撮っていたときから黒澤明がイメージしていたであろう“色”が、そこにある。

ただ、その人為的な美術造形は裏を返せば不自然でもある。ほかにも聖人みたいな人がいたり、現実離れした設定があったりと、やや虚構じみた側面があるのだ。社会的弱者に目を向けている作品ではあるが、現実を忠実に描いているわけではなく、そこに賛否がわかれてくる。

しかし、本作からは社会的弱者への愛情がすごく伝わってくる。惨めでどうしようもない人たちが数多く登場するが、皆まとめて「愛すべきバカ」として抱擁しているような作品。映画だからこそできる、社会派なおとぎ話であった。
優しいアロエ

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