LalaーMukuーMerry

サイダーハウス・ルールのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

サイダーハウス・ルール(1999年製作の映画)
4.8
1943年のアメリカ、メイン州では堕胎は違法だった。それでもやむなく違法行為をせざるを得なくなった女性たちが社会の裏側にたくさんいた。人里離れた土地にある孤児院の院長ラーチは秘かに中絶手術を行う医師でもある。主人公ホーマーはそこで育った孤児。ラーチの助手として育てられ、医師免許はないけれど優れた産婦人科医の腕を持つ若者となった。そして孤児たちの世話をみる優しい兄役でもある。
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だけど若者は外の世界に憧れる。孤児院の外を全く知らないホーマーもそういう年頃になった。堕胎手術を受けに来た若いカップルに頼んで、男の家が経営するリンゴ園の労働者にしてもらい、孤児院の外に初めて出ることができた。院長は反対したが渋々認めてくれた。
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素直な性格と器用で賢い彼は周囲の人に認められて新しい世界になじんでいった。けれど、2年目の収穫期、リンゴ園の黒人季節労働者の娘ローズの様子がおかしい。産婦人科医として経験豊かな彼は、彼女が妊娠していることに気づく…
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ニューイングランドの美しい自然と心にしみる音楽で、始まってすぐにこれは名作だと悟ります。というか、この音楽は聞き覚えがある。一度見たことがあるようだけど…
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黒人季節労働者とその娘のエピソードで思い出した。やはりそうだ。初めて見た時、娘を持つ父親として、このエピソードの衝撃が大きすぎて受け入れられなかったのか、作品全体が無意識のうちに記憶から消去されていたのだと思う。
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だけど2度目に見た印象は大分違っていた。悲惨と言うよりも美しい。そういう捉え方、物事の見方の方が、この作品にはふさわしい。悲しい境遇の人たちの、思いやりに満ちた優しい嘘がたくさん出てきますが、それに共感の涙。珠玉の名作だと思います。
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ジョン・アーヴィングの原作を、「ギルバート・グレイプ」のラッセル・ハルストレム監督と原作者自身による脚本で映画化。原作者の他の作品も、この監督の他の作品ももっと見なければ、と強く思いました。