亘

8 1/2の亘のレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
4.6
【悩める監督】
映画監督グイドは次回作に悩んでいた。温泉地でゆっくりしようとしても悪夢にうなされ現実では妻と仲が悪く愛人たちと遊んでいる。一方で新作撮影は近づき彼は現実に向き合わざるを得なくなる。

映画監督グイドの苦悩・葛藤を描いた作品。アーティストの苦悩という点では後の「マルホランドドライブ」や「ブラックスワン」、「ネオン・デーモン」につながるような作品と言えるかもしれない。脈絡がないけど深層心理を描いたような映像が続くのは夢をよく表していると思うし、グイドの脳内が表現されていると思う。

冒頭からグイドの悪夢で始まる。渋滞の中の車に閉じ込められているかと思いきや次の場面では空から落ちる。その後も両親が出てきて「失敗した人生は悲惨だ」と話すし、まさにグイド自身が感じる閉塞感や失敗への恐怖をあらわしている。現実では映画を書かなければと思いつつも愛人とパーティに行くし現実逃避をしている。映画の脚本を書いても教会からダメだしされるし「この世に幸せはない」と枢機卿に言われるし、どん詰まり。どうしようもなくて彼は現実逃避をしたがるのだ。

中盤からは不仲の妻ルイザが温泉地に来て愛人とも顔を合わせる。[愛人=現実逃避・楽しみ][妻=現実]という構図だろうし現実が迫っていることを表しているのかもしれない。ルイザは「浮気できない。嘘をつくのは馬鹿らしい」とグイドにクギを刺すし機嫌が悪い。愛人もその場に居合わせるグイドにとっては災難だろう。映画製作では、ロケットのセットも完成に近づくし、退くに退けない。再びハーレムに現実逃避するも今度は女性陣に年齢差別を詰められるし、どうしようもない。スクリーンテストでは評論家に酷評され妻と別れる危機になる。

終盤ついにロケットのセットが完成し、記者会見が行われることになる。注目を集める取材陣や俳優たちをよそにグイドは焦る。こうなるともうグイドは逃げられなくなりついに自殺を思い立つ。とはいえその後グイドに優しい言葉がかけられる。「駄作は監督には命とり「沈黙への忠誠」という言葉は、コンスタントに作品を出し続けなくても良い、ということで締め切りに追われていたグイドの心を軽くしたのだろう。その後の人々のダンスや「人生は祭りだ。共に生きよう」とルイザにかける言葉は、グイドが前向きになって現実を受け入れたことを表しているように感じた。

印象に残ったセリフ:「人生は祭りだ。共に生きよう」
印象に残ったシーン:グイドの悪夢のシーン。ハーレムで詰められるシーン。人々が踊るラストシーン。

余談
・邦題は「はっかにぶんのいち」と読みます。これは公開当時の分数の読み方です。
・「8 1/2」という題は、処女作の共同監督作1作(=1/2作)+フェリーニ単独監督作8作目ということで「8 1/2」となりました。
・当初ラストシーンは、ローマへ向かう食堂車でグイドの監督作のキャラクター達が彼を見てほほ笑むというグイドの死を暗示するシーンでした。しかしその後予告編用に作成した輪になり踊るシーンを採用したそうです。
亘