滝和也

ハリーとトントの滝和也のレビュー・感想・評価

ハリーとトント(1974年製作の映画)
3.9
老い、人生の黄昏。
老猫と老人が
織りなす美しき
ロードムービー。
NY〜シカゴ〜アリゾナ
そしてLA。

主演アートカーニーが
オスカーに輝く…

「ハリーとトント」

アメリカンニューシネマの殺伐とした嵐の中で公開された何とも穏やかでゆったりとした時間を与えてくれるロードムービー。

ハリーはNYで一人住まい。教師を引退し、妻アニーに先立たれた彼は猫のトントと友人と慎ましやかな生活を送っていた。だが行政の再開発でアパートを追われた彼は長男の家に。友人の死を機会に居心地の悪い家を出て、シカゴの長女の家にトントと向かう。その旅すがら彼は多様な人達と出会うことになる…。

何年も前からストーリーは少し知ってまして、東京物語の様な感じなのかなとずっと思ってました。確かにそれはあるんですが…実はコチラのほうが遥かに家族たちは優しいし、理解もあって…。

それ以上に老いや人生の黄昏にあなたは何を見ますかと言う部分が大きい(残念ながら下になったと言うウンベルトDは未見です。)。しかもゆったりと流れの中にある様に。

ハリーは最初は頑固者の様に見えますし、流れに抗う方の様に見えますが、猫のトントのこと以外は常識はある。ただ旅をして行く中で娘や孫と出会う中で皆を受け入れて行き、常識が良識へと変わっていき、人はそれぞれに老い、生きていくと言う自然の境地に至る様に私には見えていました。老いを悲しみではなく喜びとして受け入れていくように。

それも自然に。何か凄いことが起きる訳ではないんです。人と出会い、そして別れていく。それだけなんです。そこにロードムービーの真髄があるのですが、それをゆったりと老人と老猫のコンビが見せてくれる。説教臭さもなく、時に心配になり、時にクスッと笑わせてくれる。そんな作品なんですね。

出てくる方に悪人もほぼいない。確かに街を出ざる得ないとなるNYのシークエンスはあり、だいぶ治安が悪くなった70年代のNYのリアルは存在するのですが…出会う若者たちはアメリカンニューシネマに出てくる様な偏りはなくて、確かに今風な若者たちですが、決して悪くない感じなんですよね。

そこにリアルがあるならば、ある意味悪くなったアメリカばかりを見ず、まだまだ良いところもあると言うアメリカンニューシネマのカウンター的な作品であり、また全てを受け入れる広大な大地を持つアメリカを語るアメリカンニューシネマでもあると言える作品だと感じますね。

主演のアート・カーニーはコメディアンであり、ほぼこの作品だけで一気にオスカーに輝くわけですが、素晴らしかったですね。ある意味アメリカ社会に生きる人々を映し出す合わせ鏡の様であり、狂言回しでした。優しく受け入れる柔らかさが素晴らしいですよね。

ある程度年を重ねたから、この良さが分かる気がします。ただ…自分が妻を失くし一人になった時にこうなれるか…若者たちに優しく接する事ができるかは…ちょっと自信ないなぁと…。頑固職人みたいに会社でなってきてますからね(笑)
滝和也

滝和也