ハル

ハリーとトントのハルのレビュー・感想・評価

ハリーとトント(1974年製作の映画)
4.5
あらゆるジャンルの中で最も好きなのはロードムービーである。旅をしながら見聞を広め、出会いと別れを繰り返し、その中で成長していくという過程に、人生の悲哀が詰まっているからだ。

映画はこれまでに様々な「旅人たち」を生み出してきた。その中でも特に印象に残っているのは、あの老人と老猫の「黄昏コンビ」である。

アパートをおんだされたおじいちゃんが年老いた愛猫を伴って方々で暮らす子供たちを訪ねてまわる。しかし、子供たちにはそれぞれの生活があって面倒を見てくれと言い出せる状況ではない。

小津安二郎の「東京物語」を彷彿とさせる筋書きに、当時のアメリカ社会の疲弊感が絶妙にマッチして、老人の孤独感を見事にあぶり出す。ともに命の黄昏が訪れた彼らの道行きには、まさに人生の悲哀が詰まっているのである。

この映画を見ていると、自分自身と向き合っているような感じになる。日々の生活で味わった喜びや哀しみが一本のレンズに凝縮されて見えるようだ。今よりさらに歳を重ねたとき、それはどんな風に見えるのだろう。眩いほど美しくある必要はないが、最後に少しだけ光が見えればいい。あの老人がそうだったように。
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