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大いなる遺産のSPNminacoのレビュー・感想・評価

大いなる遺産(1998年製作の映画)
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海から現れた脱獄犯、朽ちたお屋敷に住む気の触れた女主人と美少女、少年時代の強烈な体験が人生を狂わせる。金持ちの気取ったお嬢様ときたら勝手にファーストキスを奪い寸止めで置き去りにして、忘れた頃にまた田舎青年のピュアな心を誘惑するんだからたまったもんじゃない。ああ、高嶺の花グウィネス(さすが)に弄ばれ続ける可哀想なイーサン・ホークはずっとオドオドと受け身だ。非現実的な甘い夢に魅せられた青年は大都会NYで画家として成り上がり、すべて手に入れたと思えば所詮夢は泡と消え、また振り出しに戻る。
罪深き魔法で操るアン・バンクロフト、行きて帰りし物語の輪を閉じるロバート・デ・ニーロ。ディケンズの古典を現代に置き換え、文学的なトーンでなくスピーディな青春映画にしたアルフォンソ・キュアロン。飛び交うカモメや舞い散る枯葉、傾いた構図や高低差、ボタニカルな色調、ジャンプショット、長回し1カットでダイナミックに動くカメラワークがこれでもかと盛り上げる。しかも過剰にエロティック&フェティッシュだ。ダナ・キャランの衣装がまた如何にも金持ちっぽくスカしてる。そしてタイトルバックから印象的なのは、ベン・シャーン風の絵。子供が描いたにしては巧すぎるけど、独学漁師の描いたプリミティヴアートとしては最適解か。
結局貴族階級に翻弄された虚しい人生に見えるが、終盤の「足長おじさん」展開が無垢な善良さを救う教訓めいてディケンズらしい。とはいえ、本当の善人は他人の子イーサンを育てたジョーおじさんである。彼こそが良心。当時まだ若いクリス・クーパーが素晴らしくて泣かせる。

余談。ジョン・ギャラガーJr.はイーサンの少年時代役オーディションで最終候補に残ってたという。確かに受け身で怯えた子供には似合うけど、これを観るとやっぱ違うわな。キャスティングは大事だ。
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