カラン

オネーギンの恋文のカランのレビュー・感想・評価

オネーギンの恋文(1999年製作の映画)
4.5
この『オネーギンの恋文』よりも前に、ベルトリッチがリブ・タイラーをフィーチャーして、adolescence思春期とsexの邂逅を描いていた。それはそれでよかった薄い記憶があるが、このファインズ一家による作品は比類のない出来栄えである。

主演が、長男のレイフ・ファインズ。監督がレイフからすると妹のマーサ。音楽は弟のマグナスという構え。

脚本や演出よりも、撮影と美術に心を打たれた。画面いっぱいに広がる香り立つアウラに、何年経っても映像を思い浮かべることができるほど、幸福な映像体験だった。深い黒の色使いを中心にしながら、二十歳を過ぎたばかりの、それこそオーソン・ウェルズだってrose budってつぶやくだろうようなリブ・タイラーの色づいた頬と、哀れで孤独なレイフ・ファインズの黒い染みのような背中も印象的。

リブ・タイラーが想いに耽って、声を漏らしているシーンも、美しいのだが、もう少し工夫があってよいのかと思う。しかし小さなことである。

そもそもリブ・タイラーのことだけを書こうと思いたったのだが、考えてみれば、凄いのは監督のマーサ・ファインズなのか?それとも今回のマーサ監督と、弟のジョセフ・ファインズと、後に『エリザベス』を撮った撮影監督のレミ・アデファラシンという人の力なのか?

とにかくビジュアルが感動的に美しい映画である。プーシキンとの整合性とか、その他は捨てて、映画の表面にとどまると、一つ一つのカットが心に深く残る香気漂う貴重な映像体験ができる。
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