SatoshiFujiwara

ブリティッシュ・サウンズのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

ブリティッシュ・サウンズ(1969年製作の映画)
3.7
本作ではゴダールのベタさ、かつ真摯だかふざけてるんだかの分からなさが(と言うよりも真摯にふざけていると言うべきか)52分というコンパクトさの中で存分に堪能できる(笑)。面白い。

しょっぱなに「BRITISH IMAGES SOUNDS」とサインペンでユニオンジャックに書かれた文字がバン! と映るが、IMAGEの文字は✕で消されており、さらに背後からパンチが飛んできてIMAGESは破って消される。そこに被る声は「ブルジョワジーは自分の姿(イメージ)に似せて世界を作り出す。同志諸君、我々はそのイメージを破壊しなくてはならない」(ゴダールは「正しいイメージなんかない、単にイメージがあるだけだ」と言っている。正しいとか間違っている、ではなくてイメージ自体があるだけだと。つまりイメージはイメージを誘発するから本当のイメージなんてものはない)。

自動車工場の労働者たちが自分たちの仕事の非人間性などについて話し合うシーンでは「FORD USA」と出て、DとAに✕が付く。まんまだと「フォード(むろんアメリカの大自動車メーカーだ)USA(アメリカ)」だが、✕が付けば「我々のために」となる。ここでは資本主義社会における抑圧と搾取、物象化が議論されており、上記文字に「…1つの階級による他の階級の抑圧につながる」との声が被る(ちなみに映画内に極右的で極めて危険な発言をカメラに向かって自信に満ちて喋り続ける男が登場するが、右傾化する今の世界を嫌でも想起するし、もっと言えば「塔」に住んでいるあの人を連想せずにいることもまた難しい)。

まだまだあるが、こういうゴダールの「ふざけ方」は正しく反=ブルジョワ的であり(笑)、この時期のゴダールはガチガチの毛沢東主義者だったようだからイギリスから「イギリスについてのドキュメンタリーを作ってくれ」と言われていけしゃあしゃあとこんなのを提出したんだろう。ちなみにそのイギリスでは放映を拒否されたという話だ。こんなの出したらそうなるだろう。
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