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ムトゥ 踊るマハラジャのkaomatsuのレビュー・感想・評価

ムトゥ 踊るマハラジャ(1995年製作の映画)
4.0
1999年某日、銀座シネパトス(すでに閉館)にて鑑賞。

本格アクション、歌とダンス、ラブストーリー、ロードムービー、人間ドラマ(友情と信頼、出生の秘密 etc)…これ一本で、全部やっちゃった。もう、呆気にとられるしかない、2時間40分のぶっ飛びスーパー・エンターテインメント・ムービー。公開当時、今は無き銀座シネパトスにて、新たなる次世代ジャンルの映画を観てしまった衝撃を、いまだに忘れない。これぞ、この後大量生産されることになる、マサラ・ムービーの先駆的作品。

勿体ぶったベタなオープニングから間もなく見られる、ラジニカーント扮する主人公・ムトゥのクンフー・アクションにまずシビレる。その素早い体のキレや、相手を倒すときの物悲しげな表情は、まさにブルース・リーそのもの。とある大地主の使用人であるムトゥの、恋愛と冒険、大地主との信頼関係、そして出生の秘密にまつわるエピソードなどが、昼ドラも真っ青のベッタベタなお涙頂戴ストーリーと、これでもかとしつこいほどの歌と踊りを交えて展開される。特にアクション・シーンに見られる、過剰なカット割りとスローモーションには笑った。もしやそのために、上映時間がこんなに長いのか…?

気持ちが高ぶったり、何か事あるとすぐ大所帯で踊って歌い出してしまうのは、かつてのハリウッド・ミュージカル映画も同じだが、インド舞踊とヒップホップをごった煮にしたような、そのオリジナリティあふれるダンスのキレと色っぽさは、マサラ・ムービーならでは。反面、シリアスなシーンにおけるドラマの筋書きなど、思いのほか脚本はしっかりしている印象。そんなエンターテインメントと人間ドラマの融合は、現在でいえば、チャウ・シンチーのスタイルに近いだろうか。どちらもブルース・リーつながりだし。

素朴な人間模様や社会を描いた、堅実なインド映画が次々に生み出されている昨今、この作品を観たら、さすがにB級感あふれるチープな古さは否めないだろう。しかし、南インドの熱気と活気を真空パックで封じ込めたような、このてんこ盛りムービーをきっかけに、インド映画が一般にも認知され、さまざまなスタイルに進化していったことを考えると、本作の存在意義はとても大きいな…とつくづく。
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