Tsuneno

SPACE BATTLESHIP ヤマトのTsunenoのネタバレレビュー・内容・結末

SPACE BATTLESHIP ヤマト(2010年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画を作ることのむずかしさは、前掲の『ノルウェイの森』を作ることのむずかしさによく似ている。ともに映像だとはいえ、実写とアニメでは土台が違うし、相手は人々がまだイマジネーションで映像の拙さを補完していた時代に制作され、そして大ヒットした化け物アニメだ。
これを現代、わざわざ撮り直すことの意味、さらには実写化することの意味みたいなものを、視聴する者に納得させるだけのクォリティやテーマをキャストできるかが成功の鍵を握っているんじゃないかと思っていた。
 
この作品は珍しく奥さんや息子を連れて観に行ったのだが、奥さんと予め話をしていたのは、「決して期待して観に行ってはいけないよな」ということだった。前述のようなレベルの要求を満たすのは並大抵のことではないし、ある意味では童話や寓話のレベルまで達してしまっている「宇宙戦艦ヤマト」をベースに期待してしまうことは、残念な結果を生む公算が高いだろうというのが理由だ。
 
その一方で、この映画を見ようと思った理由が夫婦で一致していた。それはCMで流れていた少年のコメント。CMでは少年が「泣いちゃった」とコメントしていた。最初見た時は正直言って全然揺さぶられなかった。「ま、泣けばいいじゃん」と思った。
しかし、このCMのロングバージョンを見た時に考えが変わった。この少年のコメントには続きがあったのだ。
少年は、このコメントに続いてこう言った。
「ヤマトに乗りたい」と。
 
思い付く限り、これは制作者にとって最高級に嬉しいコメントだろう。
そんなわけで、この少年に「ヤマトに乗りたい」と言わせた理由を知りたくなったのです。
 
細かい設定の違いやキャスティングについては、思ったほど気にならなかった。総じて原作はオマージュのレベルに留まっていたんじゃないかと思う。使えるところは使う。そぐわないところは切り捨てる。脚色するところは脚色し、解釈できるところは解釈する。
無闇に似せようと無理するところも、無闇に変えようとするところもない。原作に拘るわけでもなく、原作との違いを見出そうとするわけでもないスタンスでいる限りでは、単品の作品としての完成度や違和感がなく、非常に良くまとまっている印象を受けた。
 
よく耳にする木村拓哉や黒木メイサのキャスティングについても、それほど気にならなかった。というか、冷静に考えてみようぜ。じゃあ、誰だったら良かったんだろうと。そして、2時間枠でキチンと古代進や森雪を書こうとすれば、原作通りの二人のイメージを踏襲するわけにもいかないだろう。あのぐらい熱くて性急なキャラクターじゃないと無理だろうね。なにせ今回は総集編や外伝じゃなくて、事実上全くの新作なのだから。柳葉敏郎や緒形直人などの「はまり役」を見て、勝手に真田や島のキャラクターを膨らませてくれるのは、我々「大きなお友達」くらいなものです。
 
 
少し話が脇道に逸れてしまった。
少年が「ヤマトに乗りたい」と言った気持ち、すなわち制作側がこの映画を通じて何を伝えたかったのか。さらに言えば、宇宙戦艦ヤマト原作者の松本零士が、この作品に込めていたメッセージは何なのか。それは、全編を通じて作品に流れていた。
 
いまからすごく月並みなこと言うぞ。
 
この作品のテーマは、「希望を持ち続けるためにはリスクを背負わなくてはいけない」ということと、「リスクを背負ってもなお、希望を持つ価値がある」ということだと思う。
それを象徴するシーンは、ヤマトが地球を発進する前に既に出てくる。沖田と藤堂が地球人が希望を持ち続けるためにとんでもないリスクを背負うのだ。観るつもりがある方には実際に体験して欲しいので詳しくは書かないけれども、僕はこのシーンにすっかり痺れてしまった。そんなわけで、ヤマトが発進する前段階で、すでにこの映画を肯定してしまっていた。
 
ところでこの作品、今年はじめてパンフレットを購入した作品なんだけれども、制作者が概ね僕が感じたようなことを考えていたことが分かって面白かった。
監督のインタビューがそれを象徴的に示しているので、ちょっと長いけれども引用する。

“危険なことは最初からやらない人が多いですよね。『どうせダメだろう』とう言うように、『どうせ』っていう言葉が蔓延しすぎちゃっている。自分が傷つくことを回避することの方が、頭が良いと思われている時代だと思うんです。でも、回避し続けていたら人生に起伏がなくなる。それはきっとつまらない人生ですよね。情熱に突き動かされて、危ない方に行ってしまうことで傷ついたとしても、それを乗り越えた幸せがあったりもするし、そうやって人は何かを獲得していかないといけない。最初からやったこともないのにわかったフリをして、『どうせダメだろ』という生き方はそろそろやめた方がいいと思うんです。それに対する反動が世の中的にも起こらないといけないんじゃないかと”


この思いが伝わり、少年が「ヤマトに乗りたい」と言ったのだと考えるとワクワクしませんか?大人もモジモジしている場合じゃないと思うのです。
Tsuneno

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