meguros

死刑弁護人のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

死刑弁護人(2012年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

新宿西口バス放火事件、あさま山荘事件、ダッカ日航機ハイジャック事件、そして和歌山カレー事件、オウム真理教事件。死刑を求刑される事件を数多く担当してきた安田好弘弁護士の姿を追いながら、事件に至る日本の暗部、加熱する報道、死刑を取り巻く国民感情、政治と一体化した検察等、この国の姿が浮かび上がる。

まず、和歌山カレー事件。林真須美とその夫は確かに保険金詐欺師ではあった。夫は自らヒ素を飲むことで身体の不調を訴え、6億もの保険金を手にしていたが、金にならない事件をなぜ起こす必要があったのか?カレーから発見されたヒ素は林宅のものとは異なるとされ目撃証言も不確かだったが、マスコミに押し切られる形で逮捕、起訴となる。後に検察から提出された紙コップの証拠に対する捏造の疑惑も拭えぬまま、死刑が確定。長女の自殺には集団的加熱取材の影響もあったのではないか。

光市母子殺害事件は本当に痛ましい事件だが、真実を明らかにしようとする行為は被害者感情を無視することとイコールではないはず。テレビの報道によって加熱する死刑ムードには、死刑弁護人の立場から社会を視ることで事件とはまた別の恐ろしさが見えてくる。

オウム真理教事件では、横山弁護士解任後の国選弁護人として安田弁護士が選ばれる。早く決着をつけたい国、真実を解き明かしたい弁護団。審理スタートから2年半の時が経ち、突如、安田が逮捕される。顧問を務める会社に資産隠しを指示したとしたもので、安田は国選弁護人を解任となる。その間、麻原から事件の真相は語られることなく裁判は進行、死刑判決へ。二審も控訴棄却となり死刑が確定する(再審請求も却下)。一方、逮捕された安田は、これを不当捜査/でっち上げとして裁判へ。禁錮以上の刑が確定すると弁護士資格が取り消されるため、全国1400人の弁護士が安田弁護団を結成。一審では無罪となるも検察庁は即日控訴。控訴審では有罪となり、罰金50万円となる。

この映画を見て、今も昔もこの国はこうだったというその認識を新たにした。憲法を捻じ曲げても、不正な献金を行なっても施政者は捕まらないのだし、国の都合に反するものは容赦なく排除され、国連の人権憲章を無視する形で何年も”勾留”という名の拷問状態に置かれる国なのだ(だからゴーンは逃げたわけだし)。振り返れば、米ソ対立からの逆コースで巣鴨プリズンからA級戦犯が出獄した頃から既に法治国家の体は成してなかったのだろう。民主主義といっても所詮うちのは空箱だ。96年には新しい教科書をつくる会が立ち上がって歴史まで修正しだすわけなので、専制国家の要件カードがいよいよ表面に出揃ってくるのもオウム事件と同じ頃。

また、もう一つ安田弁護士が語っていて重要だと感じたのは、真実を明らかにするということの意味だ。何も彼らは勝利することだけを考えているわけではない。真実を明らかにしなければ、なぜ痛ましい事件が起こらなければならなかったのか、どのようにすれば我々の社会はこの先同じような過ちを犯さずに済むのか、それを考えることができない。

この真実を明らかにせず、反省ができないという点は正にそのまま、戦後日本社会が抱えてきた課題そのものではないか。一体、令和はどうなるのか、嘆息が尽きない。
meguros

meguros