緑

死刑弁護人の緑のレビュー・感想・評価

死刑弁護人(2012年製作の映画)
4.0
有名事件を多数受け持つ安田好弘弁護士に密着したドキュメンタリー。

元々は私は安田弁護士を始め、
所謂人権派弁護士の多くは人を信じすぎているように思っていて、
その印象がより強くなった。
死刑を回避して時間をかけて
後悔や反省に辿り着ける人もいる。
それならば全力で戦うという気概は尊いとは思う。
ただ、世の中の理解は得られにくい。

今の日本は「不寛容社会」と言われる。
誰かの罪や失敗を見つけたら徹底的に叩きのめす風潮ができて
どれくらい経つのだろう。

重大事件の犯罪者を赦せとは言わない。
特に多くの犯罪被害者遺族は無理だろう。
でも、大多数の人はその事件に無関係だ。
どんな形であれ正義の鉄槌を下す権利などないし、
そもそも多くが事件を利用して
自分のフラストレーションを発散しているだけである。
そのことに自覚的にならなければ世の中は不寛容なままで、
安田弁護士のような活動が大勢に支持される日は来ない。

光市母子殺害事件での「ドラえもん」で悪名を轟かせてしまったが、
安田弁護士たちは冗談で言った訳ではない。
彼らは常に本気だ。
被告人がそう言うのだから、
そしてその発言が信用できると判断すれば
彼らは法廷でそう述べるのだ。
それを多くの人たちが「ふざけている」と捉えた。
恐らく検事や判事もだろう。

しかしそれは違う。
犯罪者の多くは未熟である。
劣悪な家庭環境だったり、適切な教育を受けられなかったり、
精神的な病にかかっていたり、
様々な理由が複合的に交わり犯罪に至る人が多い。
だから赦せとは言わない。
ただ、これらを理解しないまま安田弁護士たちの弁護を聞いても
正しい理解には至れないのだ。

「法廷戦術として言わないというやり方はなかったのか」と
記者に問われた安田弁護士は、
それでは真相がわからなくなると答えた。
判事への印象を良くすることよりも
なぜこんな事件が起きてしまったのかを
解明するほうが大事だと考えている訳だ。
判事はもっと真剣に受け止めるべきではないか。

「ドラえもん」と言ってしまう被告人であることを考えた上で
死刑の判決を下すならそれはそれで仕方ない。
現状、日本の刑法には死刑があるのだから。

法廷で死刑廃止を訴える弁護士は仕事を放棄していると
安田弁護士は語った。
そうなのだ。
法廷で主義主張をしてる訳ではないのだ。
事件を死刑廃止の運動の一環と見ている人は
多いのではないだろうか。
まずはこの誤解を解いて欲しい。

残念なのは、人は耳に心地いい意見ばかりを聞きたがることだ。
死刑賛成派の多くは死刑反対の弁護士の映画はまず観ない。
緑