螢

赤と黒の螢のレビュー・感想・評価

赤と黒(1954年製作の映画)
3.4
「世界一の美男」ジェラール・フィリップの魅力と演技力が光る、フランスの文豪スタンダールの同名小説の映画化。

19世紀前半のフランスを舞台に、美しく野心に溢れた貧しい労働者階級出身の青年ジュリアンが階級の壁を超えようとして果たせず破滅する姿を描いています。

長編小説の映画化ということで、小説と映画の技法的違いや、時間的な制約により、どうしても抄訳的なメロドラマになっている印象は拭えません。

それでも、フランス革命もナポレオン時代も終わり、建前上は自由で平等となっているはずの社会において、まだまだ残る身分と差別、そして、上・中流階級の人々の奢りと愚かさなど、当時の社会事情と風刺が巧みに盛り込まれています。

なにより、「世界一の美男」、「1950年代のフランス美」と称された、ジュリアンを演じたジェラール・フィリップの巧みな演技力と魅力でこの作品は「もって」いる。

そう思うほど、己の野心が赴くままに身分の壁を超えようとありとあらゆる手を尽くしながら、肥大した欲望、虚栄心と自尊心、そして、恋に足を救われて破滅する美青年の、愚かさと美しさを、絶妙なバランスで演じきっています。

映画評論家の淀川長治氏が、「ジェラール・フィリップは美男というのが真っ先に話題になるけど、本当はものすごく演技力がある俳優さんなんですよ」と、ある作品の映画解説で彼の演技力高く評価していたことがあるけど、それも納得の出来でした。

名作の映画化にはよくある、単調なつなぎ合わせになりがちな展開の中でも、ジュリアンのおもての美しさ、それに反する、内に秘めたゆがんだ野心や行動、湧き上がる悩み、愚かさなどを、くどすぎず、かといって軽すぎず、実に巧みに表現しています。

彼がジュリアン役でなければ、「こいつ、チャラいくせに野心だけは無駄にあったな」的な感じでなんの魅力も感じずに観終わっていたと思います。

それを回避した演技力はやはりすごいと思う。

ジェラール・フィリップに興味がある人にはオススメです。
螢