ほーりー

ベニスに死すのほーりーのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.4
イケメンや美女は
 遠くから眺めるのに限る。


その対象物に触れないがゆえに、初めて究極の美の存在を知った老芸術家が、やがて朽ちて死ぬまでを描いた作品。

いい歳したおっさんが、超絶イケメン少年に心ズッキュンされる話であるのは確かなのだが、とはいっても同性愛をテーマにした作品にあらず。

トマス・マンの原作はちゃんと読んではないから自分には批判する資格はないけれど、これって本来は形のない美というものについて、主人公が自問自答し、ある美少年の登場によって本当の美とはこれだと認識する作品ではないかと思う。

だから、主人公は彼をひたすら遠くから愛でて美を探求するだけ、という非常に小説的な内容であり、本来ならば映画化に適していないように感じる。

これを映像的に処理するためにヴィスコンティは、「退廃から生ずる美」という自分の生来描き続けたテーマを持ち込んで映像化に取り組んだに思う。

それが顕著なのが、途中挿入される芸術論のシーンであり、冒頭の薄気味悪い白塗りのジジイのシーンであり(主人公もラストは同じ化粧をする)、色々とヴィスコンティは苦心しているのがわかる。

個人的な好みではあるけれど、ヴィスコンティの解釈は、トマス・マンが本来描きたかったテーマと比べると、スケールの大きさで負けているように感じる。

そして、やはりこの映画の問題は冗長すぎる点。これ、いくら引き延ばししてもせいぜい90分前後のドラマであり、130分は無駄が多い。
ほーりー

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