滝和也

群衆の滝和也のレビュー・感想・評価

群衆(1941年製作の映画)
4.1
これが大衆だ!
立ち向かえるのか!

善良で何も持たぬ優しい
男がラジオで語る。
隣人を愛せよと…
それは大きなうねりと
なり、大衆を熱狂させた

キャプラ、リスキンの
名コンビに、若き
ゲイリークーパーを
加えた黄金トリオで贈る
社会派コメディ…

「群衆」

1941年不況により、ある新聞社はリストラを行う。その対象となったコラムコーナーを担当するアン(バーバラ・スタンウィック)はスクープを要求した編集長への腹いせに、投書と偽り記事を書いた。ジョン・ドゥーが書いたとされた投書にはリストラされ、政治や社会に見放された自分はクリスマス・イブの夜に市庁舎から飛び降りると言う内容だった。彼を救うための投書や政治への怒りの声が吹き出し、巨大な反響があった事から、新聞社はドゥーと言う虚像を動かし始める。その虚像に選ばれたのは善良な元マイナーリーガー、ジョン(ゲイリー・クーパー)だった。

或る夜の出来事、オペラハット、我が家の楽園とコンビを組んだ脚本家ロバート・リスキンと監督フランク・キャプラの名コンビがオペラハット以来のクーパーを主演に添えた社会派ドラマです。

軽妙洒脱なテンポとユーモア、そして人に対して希望を持った人間讃歌(アメリカ人へですが…)を得意とするこのコンビとしては、かなり社会派に寄った作品です。故に上記した作品に比べ日本で語られる事が少ないのですが、見事な傑作でした。(アメリカでは評価高いです)

新聞社が情報をコントロールし、ラジオが更に増幅、大衆を操ると言う…言葉にするとかなり悪くどぎつい内容ですが、それはリスキンキャプラですので、隣人を愛せよ、助けよと言う優しいオブラートに包まれています。

ただ…草の根運動が全国に波及していくのですが、それはあくまでもオブラートであり、新聞社社長や資本家、労働組合の長の狙いは別…。この辺りは怖い所であり、現在のトランプ政権ができてしまった事に通じてますよね…。この時代で言えば、大衆を扇動する独裁者へのあてつけでもあり、衆愚に陥った民主主義への警鐘でもあります。ヒトラーは大衆に選ばれたんですよね、選挙で…。

善良な市民が情報に踊らされ、変化していく様を中盤まではユーモアを交え、優しく、後半は辛辣な視点でリアルにえがいていく見事なシナリオと演出。そして二人が描く作品らしい、人への希望に溢れたラストと正にウェルメイドな作品に仕上がっています。

特に、あのスタジアムのモブシーンのリアルさ。正に転落する舞台として相応しい大仕掛けです。事実を知った大量の群衆から非難を浴びるジョン。その物量、動員力、流石ハリウッド。その転落の落差が作品、シナリオに厚みをだし、リアリティを伝えてきます。

虚像と本当の自分に葛藤するジョンにゲイリー・クーパー。抜群の上手さを見せてくれます。アメリカの善良なる市民を代表する役柄であり、正にハマり役。これ代表作ですね。その朴訥な優しい表情、そして心理変化の表現力と素晴らしかった。彼なくしてはあり得ないですね。

そして嘘と真実の狭間で良心の呵責に苛まれるヒロインにバーバラ・スタンウィック。彼女の行動の引き金も貧困なんですね。追い詰められ思いつく…。彼女自身がジョン・ドゥーなんです。やはり過ちに気づいたラストの台詞や演技が良かったですよ。この時代のハリウッド女優さんはやはり美しい…(笑)

またウォルター・ブレナンがジョンの友人役、コメディリリーフとして出演。リオブラボーの味のある爺さんですよね。まるで仙人みたいな役です(笑)全てを見通していて(笑) スタジアムで助けに行く所が中々印象的でした。

コメディと言う部分よりもアイロニー、皮肉が効いた風刺劇と言う方が正しいのかな…(^^) 大分買ったあと寝かしたのが悔やまれますね(笑) リスキン、キャプラの冴え渡る脚本と演出、そしてゲイリー・クーパーの名演技、正に傑作ですので是非ご覧下さい(^^)
滝和也

滝和也