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失はれた地平線のmichiのネタバレレビュー・内容・結末

失はれた地平線(1937年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

『ベルファスト』でおばあちゃんが若い頃に観たと言っていた映画。紛争下のベルファストで「シャングリラにはここからは行けない」と哀しそうに孫に語るシーンが心に残っています。確かに、辛い境遇にあるほど、シャングリラを求めるかもしれないなと思った。

でも、私はあまり行きたくない。
「相手を思いやる」というルールだけで出来上がった幸せな土地で、お金は必要なく争いもないし、老いるペースも遅い。他の社会からは雪山を隔てて完全に独立していて、干渉されることもない。正に理想郷ではありますが、最後まで何だか不気味さと胡散臭さが残りました。
そこで人々は不自由を感じることなく気ままに暮らしているが、「高僧」なる人物は指導者だろうし、コントロールされている感じもする。争いが絶えない外の世界を憂いて世界中から美術品を集めるとかもエゴっぽくも思えて、手放しに彼らを理想的な人々と思うことができなかった。
そこにいる人には罪はないし、生きがいを見つけて残りたがるイギリス人のおじさんたち(キャプラ作品によく出てくる愛すべきキャラ)も幸せそうで、後を考えると彼らは正しい選択をしていると思うのですが…。
 
ストーリーとしては、突然主人公コンウェイが弟の計画するシャングリラ脱出に参加するのが分からなくて後半はついていけなかった。
さらに、シャングリラから早く出たいと主張し続ける人も、感情的になるだけでその中身ははっきり見えない。
理想郷を舞台にして、そこに馴染む人とそうでない人のそれぞれの葛藤を描くという設定はすごくおもしろいだけに、人々の心情の変化が読み取りきれないところがあって残念でした。
原作はおもしろそうなので絶対読みたいです。

フィルムがところどころ劣化して完全にダメになっているということで、ところどころスチル写真とサントラの音声で繋がれていました。
ともすれば失われてしまっていたかもしれない作品を、なんとか全編が観られるということには本当に感激したし、レストアを頑張ってくれた人たちに心の底から敬意を表したいです。

※2023.10.8 原作読了。シャングリラに行く面子が少し違う。
最後、ころっとコンウェイの意思が脱出派に変わってしまうのは同じだけど、彼を説得する人の説得の熱が少し感じられた。また戻ろうとするのも同じだけど、コンウェイも俗人だったんだなと感じる。
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