カルダモン

ジャズ・シンガーのカルダモンのレビュー・感想・評価

ジャズ・シンガー(1927年製作の映画)
3.6
ジャズミュージックで歌い踊るのが大好きな男の子ジェイキー。しかし厳格なユダヤ教の司祭長である父親はそれを許さず、ついには息子を勘当する。年月が経ち、青年になったジェイキーはジャズシンガーとしての地位を獲得していた。いよいよ夢にまで見た大舞台で披露することになった日、それは奇しくもユダヤ教における大事な祭日であり、教会で讃美歌を歌う習わしだった。

親子といえど互いに相容れない、譲れないものはある。ユダヤ人であること、そして黒人音楽が好きであること。自分の中ではなんの矛盾もなく同居するのに、音楽も家族も同じくらいに愛しているのに、なぜ父親には理解されないのか。人種は、宗教はそれを阻むのか。黒人に扮するために顔を黒く塗り歌うジェイキーの心の内側は何色なのか。アイデンティティが最後まで揺らぎ、もはや悲しいのか嬉しいのかさえわからない。


基本的にはサイレントの映画だが、歌う場面ではトーキーになる。当時これを劇場で見た人たちはきっと臨場感に驚いたのではないか。まるで目の前で生で歌っているかのような錯覚は今で言うならVR映像のような立体感なのかもしれない。当時の感覚に思いを馳せてみると驚くべき映像体験のようにも感じられてくる。