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アヒルの子の小のレビュー・感想・評価

アヒルの子(2005年製作の映画)
4.6
劇薬。好悪は大きく分かれ、嫌悪する人の方が多いかもしれず、その理由も大体想像できる。しかし問題は本人にとってどうかであるし、この映画が効く人、心の支えになる人は間違いなくいる。

『ゆきゆきて、神軍』の原一男総指揮のもと、小野さやか監督が日本映画学校の卒業制作で手がけたドキュメンタリー。小野監督は5歳と10歳の時、心に大きな傷を追う。その傷を隠して家族の中でいい子を演じてきたけれど、耐えられなくなり、死にたいと思うようになる。

自分を押し殺し、家族に縛られ、犠牲になってきたという思い。これから生きていくためには家族を壊すしかない。小野監督は「撮るか死ぬかの覚悟で撮った」と話しているけれど嘘ではなく、大げさでもない。

こんな凄いドキュメンタリー良く撮った、ということもさることながら、被写体の家族、「幸福会ヤマギシ会」(農業・牧畜業を基盤とした理想社会を目指すコミューン団体)が映画の公開を良く許したなあと思う。特に長兄。ひょっとすると黙って公開したのかと思ったくらい。

そのことについて、監督は次のように語っている。
(http://eiganomori.net/article/150305842.html)

<姉が一番反対しましたね。やはり長兄のシーンは外せ、と。でも、そこをカットしたら意味がないですからね。根気よく説得して、最後は「四国では上映しない」という条件で、了承してもらいました。長兄にも何回も会って、何回も嘆願して、許可を取りました。最終的には「お前の好きなようにやれ」と言われました。(後略)>

<結果的には、(完成から公開まで)5年おいてよかったかなと思っています。家族一人ひとりが内省するための時間が必要だった。勢いに任せて公開していたら、たぶん、私はすごい傷だらけになって、そのままどこかに逃亡してしまっていたと思います(笑)。>

トラウマを「無意識」に押し込めようとしても、何からかの形で表に現れ、精神を攻撃してくる。だから目をそらさず、向き合って克服することが大切だと、理屈ではわかったつもりになって言うのは簡単だけれど、実行するとなると、これほどまでとは思わなかった。

日本国内で撮影した映画で、掛け値なしに命がけで撮ったと思える作品は初めて見たかもしれない。

小野監督の新作『恋とボルバキア』公開記念で、ポレポレ東中野で7年ぶりにリバイバル上映。1月19日まで。こりゃ新作も見ないといけなくなってしまった。

●物語(50%×4.5):2.25
・粗削りだけど、引き付けて離さない。自我を再構築するとは、こういうことなのだろうけれど凄すぎる。映画を撮るという目的があったからできたのかもしれない。

●配役、演出(30%×5.0):1.50
・圧倒された。監督もさることながら、家族を称えたい。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・いい感じ撮れているのが凄い。
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