えびちゃん

簪(かんざし)のえびちゃんのレビュー・感想・評価

簪(かんざし)(1941年製作の映画)
4.0
ピュアネス弾けていてこっちが恥ずかしい。温泉宿でのひと夏の淡い思い出。
露天風呂でかんざしを踏んづけて怪我をした青年 笠智衆とかんざしの持ち主 田中絹代とのまろやかでくすぐったい恋愛未満の心の対話。ピュアネスの方向が可笑しくて何故か田中絹代が笠智衆をおんぶしちゃう。なんで。
同じ旅館に居合わせた逗留客たちも愛おしい。はやし立てる大人げない周りの人間たちのおせっかいがねぇ。いい感じの2人がいて、周りの人間どもが付き合っちゃえよーとかいい雰囲気じゃんとかやいやいやってしまうと当然付き合うべき2人も付き合えないまま終わってしまうんだよなぁ。
"情緒的"な終わり方が切ない。別れ際を映さないのか…。
わたしだったら一緒に東京に帰ろうと言わせるが、お妾さんだった彼女にはそうはならぬ女の矜持があるのだ。気高くて何者にも侵されないプライドがあるのだ。
遂に1人になった田中絹代が石段を一段、一段登っていくその描写に痺れる。夏の終わりの寂しさとひとりぼっちになってしまった空虚さをその身に映す佇まい。太田喜二郎の絵のようにびりびり心を揺さぶった。
世界線がだいたい同じ『按摩と女』とセットで観るのがいい感じ。ほんのりクスッとさせたり、ほろりとさせるけど感傷的過ぎないのバランスが完璧、大変良い塩梅。"情緒的イリュージョン"という言葉の反復も心地よい。清水宏だいすきすぎる。来月の神保町が今から楽しみ。
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