shuuhey

簪(かんざし)のshuuheyのレビュー・感想・評価

簪(かんざし)(1941年製作の映画)
4.2
清水宏が旅館を使いたがるのはパーソナルな部分で愛着があるんでしょう。数日間の出会い、交流、別れ。赤の他人と過ごす場所として旅館を採用する点では映画的で凄く好き。現代はプライバシーが尊重され、他の客との交流など無いに等しい環境だけど、当時の旅館は襖一枚隔てただけの部屋で、様々な事情で宿泊する客との出会いの場だった。人の価値観や生活観がいちばん現れるのはそういった場所であり、それらが衝突するときに起こるドラマが面白いじゃないですか。


連続した襖を使った人物の出入り。見せること、隠すことをコントロールする為のツール、その賢い使い方に興奮する。
『按摩と女』のようなブラックユーモアの笑いではなく、権力が反転したときに起こる笑いがベース。居心地の悪さや暗黙の了解の中で繰り広げられる会話。

少年たちの「頑張れおじさん!」って叫び続けるやつは悪い意味で耳が痛いけど、口語で書かれた日記を読むとすごく可愛らしくてやっぱり愛せてしまうのが卑怯。

川に架かる橋や原っぱでリハビリする一連のシーンは、引きで笑いを作りたいのは凄く分かるけど、それを引っ張るだけの画の耐久性がない。カッティングで笑かすか、別の起爆要素がほしかった。
リハビリを複数のシチュエーションで一部始終見せちゃったのが勿体無い。ラスト、女の顔と階段を上がる足のカットバックを叙情的に見せていくラストが活きてない。
shuuhey

shuuhey