みきちゃ

インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実のみきちゃのレビュー・感想・評価

4.4
2008年の世界金融危機が起こった背景と、大破綻と混乱に至った経過を教えてくれるドキュメンタリー。リーマンショックとその原因のサブプライムローンだけに特化せず、世界レベルの広い視野と、米国政府やウォールストリートを深堀する局地的視点を兼ね備えた良作。専門用語も図解で説明してくれて分かりやすい。ナレーターを務めるのはハーバード大を中退したことを激しく後悔してるらしいIQ160のマット・デイモン。

この作品が提唱する世界金融危機の背景は、1980年代以降の規制緩和に端を発する。米国は1930年代の大恐慌を教訓にして金融業界にしっかり規制をかけていたのが、レーガン政権時代に規制緩和がなされて、金融機関の寡占化が進み、市場での支配力が増していく。金融機関は貪欲で、利益追求は留まるところを知らず、リスクも顧みない。金に物を言わせたロビー活動と、権力で抱き込んだ格付け会社や政治・経済の著名人を利用して、金融派生の「なんだかよくわからないがとっても買いやすい商品」を増やして売りまくる。国家政策にも影響力を持ったことで、彼らの強欲さに待ったをかけるものは皆無で、結果として世界を巻き込んだ破滅を招きやがったと説く。

この間、米政権はレーガン⇒パパブッシュ⇒クリントン⇒子ブッシュと変わっていくのに、経済を司るシステムのメンツは殆ど変わらない。リーマンショックをやらかした後、オバマ政権になってもまだ特に変わっていないらしくて流石にビックリ。この辺りの責任追及の甘さを厳しく攻めるトーンでナレーションが続く。

原題「Inside Job」からも伝わってくるように、主張するところはそもそも米金融業界には構造的な問題があって、リーマンショックは中の人たちによって起こるべくして起こされたんだということ。関係者のインタビューと議会証言映像の積み上げは確かに説得力があって、当事者たちは世界中に数多の失業者を生んでおきながらほぼ無傷でやり過ごし、むしろ儲かってる感じで唖然とした。ほとんど詐欺事件!!!なんつーか、恥も外聞もなく超無節操!

でも考えてみれば米国ってそもそも節操などないよりの超ない系の国。倫理観よりは利益。歪だろうがなんだろうが優先されるのは経済成長。その成長を引っ張るのが金融業界。ウォールストリート。

キーパーソン全員から証言を取るぞという意気ごみは素敵なんだけど、インタビューを拒否られた事実を並べることでいかにも後ろめたい奴らみたいに感じさせてくる部分は好みじゃなかった。赤裸々で間違ってないとも思える一方で、わずかとはいえせっかくの正義が損なわれたように感じられる演出でもある。

めちゃくちゃ勉強になった。面白かった。

ひとーつ!理解できない商品は買わない!
ふたーつ!理解できない契約は結ばない!

そゆこと。
みきちゃ

みきちゃ