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フルメタル・ジャケットのTnTのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.5
 キューブリックの描く戦争映画だが、実にエンターテイメントだし実に単純明快だなと感じた。人が撃たれるシーン以外は正直楽しんで見てしまった。ただ、やっぱり戦争を忠実に描く=その現場のリアルさと興奮を味わうものになってしまうなとも思った(「プライベート・ライアン」をその観点から批判する記事もあった)。戦争の愚かさだけでなく、そこに潜む暴力性の解放までもが描かれている(完璧主義者なキューブリックゆえに)。自分はこれを観て絶対軍に入りたくないと思ったが、反面友人は今作に強く影響され、そのまま自衛隊に入った。自分が初めて観たのは高校生ぐらいだったが、もう少し早い時期に観ていたら、この映画の興奮をただ鵜呑みにしていしまっていたように思える。

 若者。戦争という状況を抜きに語れば普通であったであろう人々。しかし、戦争であろうと若者らしさはある。戦禍の途中道に迷ったり、命令に従わなかったりするのはこどもっぽさが滲み出ている。だからベトナム女を撃つか放置かの極限状況は、極限でありつつまるで観客である自分にもその選択肢が欲求されているような気がした。同じ若者として、そんなに変わりなく感じたので、非常に緊張感高まる恐ろしいシーンだった。とにかく思ったのは、戦争というでかい化け物は若者の精力的なパワーを必要としているということだ。

 物語。フルメタル・ジャケットのタイトル通り、銃弾の鋳型に押し込められる若者たちの物語。唯一、鋳型にはまることを拒んだ微笑みデブことレナード(彼だけが本名が作中で明かされている)は死んだ。ジョーカーも近い存在ではあったが、ラストのベトコンの女を撃つことで完璧に闇落ちしたのだった。キューブリックの映像の面白さはもっぱら視覚的であるからで、実は内容はこんなにも単純だ。これだけ観ていられるのは、やはりその映像表現に秘められているのだろう。

 その映像について。相変わらず奥行きばっちしな構図が目を引きつけてやまない。また表情のクローズアップも多く伺えた(狂気の表情にズームして寄る所もいつも通り)。そしてそれ以上にこのテンポの早さ。シーンからシーンへの繋ぎは幾分唐突なところも多く、またディゾルブで繋がれたり次のシーンの音楽が早く被さるなどが見受けられた。久々に見返して思ったがレナードの自殺の後は、あんなにも早く「These Boots Are Made for Walkin'」がかかるとは思わなかった。余韻というか、観客に考える隙を与えない作りだ。だからこそ観客はその戦争の興奮に飲まれ麻痺していく。そして時折挟まる死がそれらを休符的に止め、はっとさせる。

 色彩。基本的に軍のカラーである緑が基調となっているが、夜のシーンの青さや炎のオレンジなども際立つ。血濡れた赤の表現は頻出していないというのが意外。しかし、ブラックアウトする寸前にほのかに赤色に画面が染まるのは、単に技術的な問題なのか、それとも意図しているのか。

 音楽の特徴的な使い方。当時のポップソングをふんだんに使う。感情を盛り上げるそれらと戦況はマッチしつつミスマッチでもある。ベトナム戦争が起きていようと作られるポップソングは、ベトナム戦争に対するアメリカ国内の当時の無関心さを皮肉っているのかもしれない。キューブリックが好むクラシック楽曲は今作にはなかった。

 ラストの「ミッキーのマーチ」。歩く彼らがまだまだ子供であることの象徴、また無邪気な暴力性やディズニーのかかげるテーマと彼らの危うい共通点、また皮肉など入り混じりまくったシーン。今思えば、よく使えたなその楽曲と思ってしまう。ディズニーはずっと重荷を背負うのだった笑。「炎628」(1985)とラストの流れが似ているところ、戦争の果てなき歩行のイメージがダブるのは根底に同じメッセージがあるからかもしれない。今作品でベトナム女を撃つのと、「炎628」でヒトラーの幼少期を撃てないのは、行為としては反対だが同じテーマを持ち合わせているように思えた。

 比較。すごい作品ではあったが、同時代の戦争映画と比較すると音楽の使い方なんかも似てるし突出できなかったのではないかと思った。というか、よりスペクタクル的になっていった戦争映画の描写を抑えた点で今作品はまだ節度があったのかもしれない。作中に報道や撮影、インタビューシーンが挟まるが、彼らは戦争を飾り立てイメージを仕立て上げている。キューブリックは彼らの存在を描くことでそうした飾り立てをしない神視点から戦争を描こうとしたのかもしれない。しかし、映画は果たしてその境地に行けるのだろうか。映画の中でカメラを持つ男が現れた時、今作品も背後にカメラがあるのだと自覚させられる。逆に映画が戦争を”撮る”ことの限界がここにはあるのかもしれない。

追記
エンディングの「paint it black」はエンドロールの黒画面をメタ的に表しつつ、戦争映画が最終的に"黒く塗りつぶされる"という皮肉の効いたラストなのかも?また原曲とエンドロールの曲は印象がだいぶ違うので聴き比べたら、エンドロールではどこかでピッチを変えているようだ、、、キューブリック、恐ろしい。
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